第55話 本当の俺の最期

 俺は、両手で持った弓に力を込めた。弓を構える。というか。弓の両端を持って、力を込めた。できるかな?とちょっと不安だったが――。


 バキッ。


 見事に乾いたいい音がして、弓が真っ二つになった。思ったより、力は必要だったが。予定していたことはできた。すると。


「何をしておる!若いの!?」


 天井から驚きの声がしたので、俺は返事をする。


「あっ、神様。力入れすぎて、弓壊しちゃったわ、ほら」


 真っ二つになった弓を、天井に見せる。神様が見ているかは、わからないが――。


「……うむ――若いの、それは、失敗を意味する。良いか?」

「問題ない」


 俺が返事をしたところで、離れていた長瀬飛んできた。という表現が、正解だろう。慌ててこちらに来た。


「ちょ、忍海君!何してるの!?なんで?死んじゃうよ!?現実世界戻れるんでしょ!?なんで!?何してるの!?」


 そして長瀬が俺の腕をつかんできた。その際に、真っ二つの弓が落ちる。そして、それは役目を終えたのか。落ちると、ともに、消滅するように、弓はふんわりと――さーっと消えた。っか、長瀬。ちょっと声のボリューム下げてくれ。近くでは、うるさいレベルだ。


「これにより、若いの。お前さんは現実世界で、完全に、死ぬこととなる」

「ちょっと待って!」


 長瀬が言うが。声は続く。


「今をもって、終了じゃ」

「――死んだか?俺?」


 ――プツン。


 特に何か感じたわけではない。でもなんとなく――何か切れた気がしたから聞いてみた。


「そうじゃ。そして、この瞬間から、そなたらはこの世界に囚われる。二度と、現実世界に行くこともなかろう。そして、新たな魂となることも――ない」

「年も取らないんだっけ?」

「そうじゃ、何年、いや、何百年とそのまま、この世界を彷徨うのじゃ。若いの……残念じゃ。なかなか優秀だったのにの」


 声がした後、その空間は、スッと暗くなる。というか。長瀬が居た?部屋みたいなところが消えていき。神社の本殿の中。何もない空間だが。そこに長瀬と2人立っている状態となった。


 もう何も聞こえない。


 どうやら――俺は、正式にこちら側の世界の住人になったらしいと。身体のどこかが教えてくれたような気がした。


「……どうして?」


 すると、長瀬が聞いてきた。


「いや、元からこの予定だったんだけど――?」


 そうそう。これ予定通りな。


「なんで――忍海君生きてたんだよ?それって――自分で、自分を……殺しちゃったんだよ?」

「だから、それが予定通りなんだけど」

「――?」

 

 何言ってるの馬鹿?とでも言いたそうな長瀬の表情。


「いや、現実世界の最後に、本の感想言い合っただろ?」

「……うん」

「あの時は、1人しか、帰れなかっただろ?」

「あー、うん、1人が犠牲になって――でも、今は、帰れたよ?忍海君は何も失わずに」

「いや……長瀬はこっちのままじゃん」

「――そうだけど、それは、私もう死んで――」

「ちなみに、なんか、俺がミッションしなかったら、長瀬はもっと早く処分?されてたみたいだぞ?」

「――それでもよかったよ。私、忍海君の最期を――」

「でも、俺がなんか、ミッションやらしたことで、長瀬もこうして残っている。で、俺も残っている」

「でも!現実じゃないよここ?何かわからない――意味わかんない世界だよ?」


 もしかして長瀬は外を知らない?俺はそんなことに気が付き声をかけた。


「じゃ、とりあえず外出てみるか」

「――――へっ?」


 なんか、この空間で話しているより。ちょっと外を、見てきた方が、気分転換になりそうだったので、長瀬を外に連れて行く。


「あれ……ここ――、神社?あの時の?」

「そう、意外だろ。俺の最期の場所に、お前住んでいたんだな多分長年」

「――それは分からないけど――住んでたのかな?」

「まさか、本殿の中に、あんなものあるとはな。びっくりだわ」


 ふと振り返る俺。ちなみに今は普通に神社の本殿だ。どうやら――この世界?俺が居るところはそのままで、神様?とだけやり取りができない雰囲気だ。


「あっ、そういえば、なんで、忍海君はあの壁?壊せたの?私が体当たりしても、全くへこみも、しなかったのに……」

「いや、俺、触っただけなんだよな。そしたら――だな」

「えっ?」

「いや、パラパラ。と、で、ぬいぐるみが飛んできた」

「あっ、ぬいぐるみ。それは――ごめんなさい」

「そういえば、ぬいぐるみは――どこ行った?」

「部屋の中にあったものだから、一緒に消えた――かな?」


 賽銭箱近くを再度見てみたがぬいぐるみはない。長瀬のいう通り部屋?のものは消滅したのだろうか?


「かもしれないな」

「って、そういう事じゃなくて、忍海君どうするの!?こんな何もないところに、残っちゃって――馬鹿だよね?」

「いや、長瀬は居るよな?」

「……居るけど――って、もう。何やってんの」


 なんか、長瀬が急に何かを思い出したのか、顔の向きを変えた。


「まあ、ここに来れたのは、ワンちゃんのおかげのような気もするが」

「……ワンちゃん?」

「そう、狛犬がな、たまたま、俺がクリアしたミッションのおかげで、帰れるようになったのか。まあ、いろいろあったんだよ。で、神社まで、案内してもらった」

「――なんか、わかんないけど、これから、どうするの?ホント――私何も知らないからね?」

「まあ、とりあえず、村まで行ってみよう」

「――ちょっと待って、ここ――村あるの?」


 いや、長瀬よ。こっちの世界に居たのに、それ――知らないのか?って、本当に閉じ込められていたのか?

 

「人?みたいな……まあ、人も村には、それなりに居たぞ?動物も」

「えっ?ここって――住んでる人居たの?」

「っか、結局、長瀬は、なんで囚われてたんだ?神様?と思われるあの声に」

「――わかんない」

「気に入られたのか?神様に」

「……やだよ。あんな神様に好かれるとか。性格悪そうだったし」

「まあ、わからんでもない。まあ、変や人は他にもいるかもだが――とりあえずここから移動しようか」

「――うん。私全くわからないから。忍海君に付いていく」


 すると、長瀬は、何故か俺の手を掴んできた。まあ、別にいいか。と、そのまま、神社の階段を2人で降りていく。あっ、あれか、今度は落ちないように確保されたのか。

 そういえば、今は――夕方?だったらしく。ちょうど、真正面から夕陽が差し込んできている。まるで、光の中に入っていく感じで俺と長瀬は進む。

 そして、今回は、落ちることなく。無事に降りてきた。そして一番下。鳥居のところに着いたときに俺は思い出した。


「あっ、そうそう、とりあえず、ちゃんと自己紹介しとこうか」

「えっ?」


 長瀬は、いきなり何?と、いう顔だったが。まあいいだろ。この世界なら、周りの事気にしなくていいから。って、こっちにいたからか。人と話しやすくなった自分が居る気がする。


「いや――なんかちゃんとした気がしてないからさ。こっちの世界で改めてというのか――俺、忍海桜太おしみおうた。生きてたら、高校3年生。よろしく」

「あー、えっと……私は、長瀬ながせ――奈桜なおです。えっと……生きていたら、私も高校3年生だけど――実際は、今の見た目だけど、中学2年で止まってます。はい」


 あっ、そうか。こいつ見た目中学生か。だからちょっと小さい。同じ学年なのにチビだと思ったよ。


「なるほど」

「あっ。今チビって、思ったでしょ」


 それはバレるのかよ。って、俺がバレやすいのか?


「思って――ないが」

「間があった」

「ってか、よくよく考えたら。現実世界でガキ連れていたようなものだったか」

「ちょ、完全に馬鹿にしてる。チビって言ってる!」

「いや、犯罪者に見えるだろ?高校生が、中学生に、振り回されているとか。今改めて思うと――」


 俺、最後の最後にやばいこと現実世界でしてたのか?でも――いいか。もう現実世界とはおさらばしたし。


「そ、そんなことないはず――多分。って、そうだ。じゃ、ちょっと、姿変えて、大人になるだけだもん……忍海君より大きくなって――って。あれ」


 すると、長瀬は、変な顔をしていた。


「どうした?」

「……変われない」

「あー、案内人の役目終えたからじゃないか?俺は、案内人じゃないからさ。こっち来てからも、変身は、出来なかったぞ?あっ、でも、物は出せたな。飲み物」


 俺が言うと、飲み物はちゃんと出てきた。どうやらそれは継続――って、あれ?もしかしてコレ――無双とかいうんだっけ?俺勝ったようなもんじゃね?この世界なんでもできる食料困らない。死なない――もしかして自由に生活できる?


「――魔法じゃん、これ。って、忍海君がなんか目を今までになくキラキラ輝かせている気がする……」

「いや、なんというか。まあ、異世界に居る。って、感じだろ?」

「そうだけど――イキイキしてる?」

「でも、一部出ない物もあるんだよな。ミッション時も、車とか出れば、移動楽だったのに」


 そして長瀬と話している時に、1つ俺は思い出した事があった。


「あっ、そうそう、これも言っておかないとなんだけど」

「なに?」

「俺、神社で死んだじゃん?」

「う、うん」

「その時さ、長瀬の母親からもらったというか。借りたのか。ちょっと、微妙なんだけどさ。あの本――多分神社の賽銭箱当たり。俺が居たところに、置きっぱなしなんだよ」

「そんなこと?大丈夫だよ。あの本確か――名前は、書いてないし。誰かの忘れ物でしょ。って感じで、神社の管理人さんが、何かしてくれてるよ」

「いや、名前は、多分わかる」

「えっ?」

「長瀬の書いたメモ挟まっているから」

「――――あっ!」


 そのあとしばらく、長瀬に、なんで、そんなもの最期に、現実世界に、置いてきたの!やら、怒られたが――。いや、取りに行けないし。っか「長瀬は、大丈夫だろう。俺の苗字が書いてあっただけだし」と、言ったのだが。「でも、恥ずかしいから。今すぐ回収してきて」ばかりだった。いやいや無理言うなよ。


 その時、ふと、どこからか。ほほえましく、見られている気がしたが――気のせいだろうか。人影も動物も今近くにはいない。っか、この神社不思議だよな。異世界なのに現実世界にあった場所って――何かあるのか?

 ちなみにあると言えば――鳥居のところには、狛犬が居るというくらいか。もちろん、現実世界と同じように、カチカチの石だが。あの時のワンちゃんは、本当にこの狛犬なのだろうか?見た目は全く違う。あの案内してくれたワンちゃんは、かわいかったのだが――あっ、お前も、もしかして、見た目変えてる?とか、狛犬に対して、心の中で言ったが、特に返事はなく。あのワンちゃんが、現れるということはなかった。

 っか、隣で、騒いでいる長瀬が居るから、出てこないのではないだろうか?と、思う俺だった。いや、間違いなくだな。今出てきたら――なんかさらに大騒ぎしそうだしな。巻き込まれたくないのかもしれない。


「ちょ、聞いてる?忍海君?恥ずかしいから、早く探して、回収してきてよ!」

「理解してるよな?無茶なこと言ってるってこと」

「わかってるけど――あれ、恥ずかしいから」

「そんなに、恥ずかしいもの?」

「いいから!」


 しばらくそんなこと言われ続けた俺だった。いやいやガチでそんな恥ずかし事書いて、あった?と、俺考えるが――わからん。


 ◆


「……この神社は、あちらとこちらを、繋ぐ場所。それを、細く長く維持できているのは、あなたのおかげです。ありがとう――――忍海桜太さん」

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