第52話 無3

 そろそろ、こちらの世界に居る。と言っても、身体がおかしくなってきそう。


 もしかしたら、数日、忍海君を――殺してしまってから。経っているかもしれない。私は、動くことなく。その場に居た。


 そういえば……こちらに戻ってきてから。次の指示がない。

 今までは、少し間があるくらいで、すぐに、次のデータが――だったのだが。


 これは、何かのペナルティーなのだろうか。それもわからない。


 私は、本当に、久しぶりに、体を動かした。

 こちらの世界なら、寝て、休むことをしなくても、疲れることはないのだが。何故か、とてもとても身体が重い。


 身体を動かすと全身がバキバキ。と、鳴っている気がする。

 血が流れだしたというのか。そもそも、私に今血は流れているのだろうか?


「……もう、やだよ」


 誰の返事も帰ってこない。この部屋にはドアがない。外がどうなっているかはわからない。

 私は、何も考えずに、ふらふらする身体に鞭を打って動かしそのまま壁に――体当たりしてみた。


 ガン。


 とてもいい音がした気がする。そして、全身に響いた。金属だろうか。そんな音がしたと同時に、私は床に倒れていた。


 天井が見える。当たり前か。倒れたんだから。


 ちなみにとっても――痛い。


 壁にぶつかった時に、近くにあった何かにも当たったみたいで、私の周りに、この部屋で使っていたものが転がった。


 すると、出発前に枯らしておいたはずの涙が、蓄えられてしまったのだろうか。

一筋流れた。


「……もう――こんなのいいよ…………死にたい――ちゃんと、死んで……こんな変なことしないで――――忍海君に会いたい……」


 ちょうど、手のところにちょうど投げるのに言い置き差の物があり。私はそれを掴み。起き上がると同時に、力一杯投げ捨てた。


「もういや!」


 私の投げた物は、ぬいぐるみだったみたいだ。ぬいぐるみさん、八つ当たりして、ごめんなさい。と、一瞬投げた時に、思ったのだが、それより、自分でもびっくりするくらい。綺麗に、まっすぐ。壁に向かって、飛んで――。


「………へっ」


 すると、私の投げたぬいぐるみが壁に、当たるよりも前だった。

 先ほど、あんなに硬かった、壁が――脆くというのか。卵の殻だったのか。そんな感じにパラパラと崩れた。なので、私の投げたぬいぐるみは、そのまま、外の世界へ――えっ?


「……ぐあ」


 そして外の世界からそんな声が聞こえたのだった。

 そのあとに、トンだろうか。ポス?だろうか。そんな小さな音をして、私の投げたぬいぐるみが、床に落ちた。


 さらに、壁は崩れていく。


 私は、ただそれを見ているだけ。

 そして、私の正面には、今会いたいと、1人つぶやいた人物が立っていた。私の投げた、ぬいぐるみを顔面に受けてしまったが……多分痛くないよね?


 ――って、なんでここに……。

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