第75話 自由の女神
7つの突起の付いた冠を頭に、引きちぎられた鎖を足元に、左手の松明を掲げた女神像。
「自由の女神だな!」
采真は嬉しそうに見上げた。
「そうだな」
「ちゃんとあるじゃねえか」
「まあ、あると言えばあるけど……」
俺は返事に困った。
あの有名な自由の女神は、ニューヨークにある。そしてここ、ネバダ州にもある。
しかしそれは、パリの凱旋門が世界各地のフランス料理店の店先にあったりするのと同じだ。すなわち、空港の端に立っている、土産物屋のオブジェだった。
ここはネバダ州。砂漠の他にはエリア51と呼ばれる空軍基地が有名な、他には何も無いところだったが、迷宮が現れてからは宇宙人と迷宮の街となり、人口が増え、大きな街になっていた。
ゲートを中心に、商業エリア、住居エリアと大まかに分かれた、かつてのゴールドラッシュを思わせる成り立ちの街だ。
「まずは、協会に行って許可証を発行してもらうか」
それがないと、泊まる所を探す事もできない。
「そうだな!行くか!」
采真が言いながら、背後を見る。
「何だろうな、この視線」
俺達は、飛行機を降りた瞬間から、まとわりつくような視線を感じていた。害があるようにも思えないので放置しているが、鬱陶しい事には違いがない。
「武器も持ってる事だし、警戒されてるのかな」
「だったらここ、探索者だらけ、武器だらけだぜ」
「探索者のフリをしたテロリストじゃないか観察してるとか?」
ちょっと考えてみたが、わからない。
「まあ、いいか。行こう」
変な事をしなければ大丈夫。俺達はそう考えて、歩き出した。
空から見ると、砂漠の真ん中に、いきなりデンと都市がある。
その真ん中にあるのが迷宮で、ここもやはり高い壁に囲まれ、1カ所だけ出入りするためのゲートがついている。
その正面にあるのが探索者協会で、武具を扱う店は、軒並みこの周辺に集まっていた。
辺りには、探索者やそれを目的にした呼び込みなどが多くいた。
その間を縫って協会ロビーに入れば、まずその言葉が出る。
「涼しい……」
皆同じなのか、近くにいた探索者が笑って、
「ははは!第一声は99パーセント同じだな」
と言った。
「やっぱりな。
で、そっちは今から?」
「おう!稼いで来る」
「しっかりな!」
男は采真の言葉に軽く片手を上げ、出て行った。
俺達はカウンターに近寄った。
「ここの迷宮に入りたいので、許可証をお願いしたいのですが」
言って、申請書を出す。
笑みを浮かべた係員は、その笑顔を一瞬崩して背後へ目をやりかけ、笑顔を浮かべ直して言った。
「探索免許証をお預かりします」
おとなしく出すと、そこのイスで待つように言われ、係員は急ぎ足で奥へ行った。
「楽しみだなあ。地形が変わってるとか言ってたよな、鳴海」
「ああ。中に崖とか川とかがあるらしくて、洞窟に一番近いそうだ。元が洞窟だった所にできた迷宮だからかな」
「じゃあ、宇宙人も出るか?」
「それはどうかな。それに宇宙人は、捕獲してここへ連れて来たんだろ?」
喋っていると係員が戻って来たが、ごつい大男を連れて来ていた。
縦にも横にも前後にも大きい。
「ナルミ・シモムラとヤスマ・オトナシか。日本、イタリア、韓国の迷宮を踏破し、ここへ来たか。
俺が支部長の、ビル・マイラスだ。ここの初踏破はアメリカ人がやる」
挨拶というより、ケンカ腰だ。
「霜村です。よろしくお願いします。
別に初踏破にこだわりはありませんよ。たまたまです」
でも、そう言われたら何か腹が立つから、意地でも頑張ってみたくなる。
俺がそう思っていると、采真もそう思っているらしいのがわかる顔付きで、
「音無です。よろしくお願いします。
俺達真面目だから、頑張っちゃうんですよね。もし初踏破しちゃったらすみませんね」
と笑った。
支部長は口元だけで笑いながら、
「ははは!我々アメリカ人は、そんなヤワじゃないぜ」
と言った。
そして、係員が笑う。
「アメリカ、ネバダダンジョンへようこそ」
アメリカでのスタートは、こうして切られたのだった。
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