第81話 追いつく

 俺達はせっせと探索を続けた。

 ここは、体を横にして通らないといけないような細い通路や、落ちたら死ぬような断崖もある。そこで襲って来るのが、コウモリの魔獣だったり、ジャンプ力が凄いカコミスルやオオカミの魔獣だったりして、なかなか刺激的だ。

 今通り抜けようとしている所もそんなところで、細い通路の片側が切り立った崖の壁で、そこからは、崖を自由に駆け回る事の出来る魔獣が飛び掛かって来る。

 そしてもう片側は同じく崖で、足を踏み外せば下の川へ落ちる。

「じゃあ、行くか」

「おう!いつでもOKだぜ!」

 それで、俺達は飛び出した。

 崖の上から降りて来て飛び掛かって来る魔獣は、早い目早い目に、魔術で跳ね飛ばし、切り飛ばす。そして前から飛び掛かって来る魔獣は、采真が斬り飛ばして突き進む。

 得意不得意のあるチームメンバーでも、相手によってカバーし合えば何とかなる、という類の所ではなく、個人がそこそこできなければ渡り切れないという場所のようだ。

 渡り切ってから足を止め、振り返る。

「回収は無理だな」

「ああ、欲を出したら死ぬぜ」

「次に進もう」

 崖の上や通路の上からこちらを見て唸っている彼らを見て、俺達は前を向いた。

「俺、子供の頃犬を飼いたかったんだ。あいつら、エサやったら、懐くかな、鳴海」

「無理じゃないか。『お手』とか言って手を差し出したら噛まれそうだぞ」

「まあ、そうかな」

 采真は少し残念そうだ。

 道はそこで広がり、しゃがみ込んで休憩する探索者がいた。

「お疲れーっす」

「お先にー」

 一応挨拶をして、先に行く。

 と、小部屋になっていた。

 入った途端、背後でゴゴゴと音がして、通路が岩で塞がれる。

「ここがこの階のラストみたいだな、鳴海!」

「らしいな。どこから何が出て来るか」

 部屋の向こうに岩山があり、床は一面、凹凸のある岩肌だ。

 その岩山の天辺に、大きな角のある羊のような魔獣が現れた。そして、上空から、殺気が迫る。

 剣と魔銃剣を振れば、切られたペリカンが落下し、ジタバタもがいてから動かなくなった。

 上を見ると、天井がペリカンの魔獣でいっぱいだった。

「こいつら、丸呑みしてくちばしの下の袋の所で溶かすらしいぞ」

「うわあ。でも、逃げられないのか」

「その液が麻痺を引き起こすらしい。

 暑くても、泳ごうとか考えるなよ。あと、服が溶けてラッキーとかいうのも無いからな」

「男2人じゃなあ」

 采真が本気で残念そうに言って、それで俺達は前へ出た。

 俺はペリカンの魔獣を燃やし、風でバランスを崩させて引きずり落とし、切る。采真は、手の届く距離に入ったやつを、片っ端から斬って行く。

 それほどかからずに、ペリカンはいなくなった。

 後は、1体だけだ。

「でっかい角!」

「あれが凶器だぞ。それと、脚力と蹄も凄いと思う」

「わかったぜ!」

「来た!」

 ボスは、ドドドと岩山を駆け下りると、ピョーンと飛んだ。

 そのボスに、滞空中に風を浴びせ、火を浴びせる。

「風はバランスを崩す程度で、火には弱いか」

「ジンギスカンになるからじゃねえ?」

 その言い分に腹を立てたのかどうかは知らないが、頭を低くして、走って突っ込んで来る。そのスピードの速い事!

 パッと左右に分かれて避けると、毛に焦げ目をつけた俺が憎いのか、俺をロックオンして追って来る。

 角を魔銃剣で受け、抑え込むと、采真が走り込んできて、首を落とすように斬りつけた。

 嫌がるように頭を振りたがり、足を踏み鳴らし、采真を蹴ろうと躍起になる。

「切れ味が悪いぜ!」

 言って、剣を目に突き立てると、ボスは激しく抵抗するように動き回ろうとする。そして、角を一旦下げ、思い切り振り上げた。

「うわっ!」

 それで俺は、空中に放り上げられる。

「鳴海!?」

 が、そこから、火を数発撃ち込む。

「うわ、丸焼きだぜ」

 着地した俺とボスの間に、既に入っている采真が言う。

 炎をまとったボスが、踊るように飛び跳ねている。

 が、すぐに倒れて僅かな痙攣をするのみとなった。

 大きな角と魔石をボディバッグに入れて部屋を出る。

「何か今の匂いで、焼肉食いたくなったぜ」

「焼肉か。いいな。

 あ、でも、ローストビーフもその内食べたい」

「ああ、あれもいいなあ。ローストビーフサンドとか。前に鳴海の母ちゃんが作ってくれたやつ」

「美味かったよな」

 言いながら角を曲がり、ギョッと足を止める。

 そこで、ハリーのチームとマイクのチームが両方休憩中だったらしく、各々飲み物や軽食を持って、こちらを見ていた。

「うおっ!?」

「えっと、お疲れ様です」

 その視線にややたじろぎながら、俺達はそこに近付いた。

 マイクがチッと舌打ちをし、顔を歪めて言う。

「もう追いついて来やがったのかよ」

 仲間の1人は呆れたように、

「アレの後で、焼肉とかローストビーフとか。余裕だな」

と言うので、采真が笑って言った。

「いやあ、焼いたらいい匂いがしたもんで」

 それに、ハリーが肩を竦めて言う。

「ここが現在の最深部だ。おめでとう。とうとうトップに並んだな。流石に早い」

 ああ、この2チームがいるって事は、そうだな。

 面倒臭いな。

 同じ事を考えたらしい采真と顔を見合わせ、俺達は苦笑を浮かべた。



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