第82話 最深部探索組3チーム

 休憩中だという彼らに混じって、俺達も休憩する事にした。

 今日のおやつは、たい焼きだ。

「美味!俺はカスタードが一番だぜ」

「俺はやっぱり粒あんだな。飽きが来ない安定の美味しさだろう?」

「あんこな!あんこもいいなあ」

 視線を感じる。

「ええっと、これはたい焼きと言って――」

「食い物の説明は求めてねえよ」

 マイクが睨みながら言うが、視線がたい焼きに……まあ、いいか。

「たい焼き。日本に行った時に食べた事があるな」

 ハリーのチームの1人が言うと、もう1人がうんうんと頷き、

「俺は、たこ焼き。

 たこ焼きにはたこが入ってたけど、それにはたいの身が入っているのか?」

と、興味津々な目を向けて来る。

「いや、形がタイなだけですよ。中味はあんことかチョコレート、カスタードクリーム、色々あります。あと、タピオカ粉を使って焼いた、白いたい焼きっていうのもありますね」

 それで彼らは、

「たいは形だけか」

「イカ焼きはイカの丸焼きだったよな、確か」

「いや、大阪では、平べったくて薄い生地に刻んだいかが入っている食べ物だった」

などと言い始めた。

 日本の食べ物にここまで関心を持ってもらえて、何か嬉しい。

 と、マイクが深々と溜め息をつき、ハリーが苦笑した。

「そろそろ行くぞお前ら!」

「ういっす」

 マイク達は立ち上がり、次へと進んで行った。

「10分したら俺達も行く」

「はい!」

 ハリー達も表情を引き締め、準備にかかった。


 そして、俺達の順が回って来た。

 マイクは戻って来ていないので、この階層を抜けたのだろう。

 しかし、ハリー達は後退して来た。軽いケガをしたメンバーがいたようで、今日はこのままおしまいにするらしい。

「行くか」

「おう!」

 俺達は次の階に足を踏み入れた。

 暗く、曲がりくねった洞窟のような通路が続く。そこに所々脇道や窪みがあり、そこから魔獣が飛び出して来たりする。

 オオカミの群れにぶつかり、倒した後だった。

「機動力や連携して来るところはちょっと鬱陶しいけど、何か楽だったな」

「通路が狭いから、前後を注意するだけでいいからな」

「あ、そうか。そう言えばそうだな!」

「その分、武器を振り回すと仲間に当たりかねないけど」

「どっちが楽なんだろうなあ」

 言いながら、牙を切り取り、魔石を拾う。

 その時、魔力がこちらに放射されて来た。

 それを即無効化すると、別人からも来たので、それも無効化し、盾を展開する。

 と、向こうからマイクが現れた。

「ああ、悪い悪い。魔獣と間違えたわ」

 采真がムッとし、堪えた。

「へえ?」

 マイク達は涼しい顔で踵を返し、奥へ歩いて行った。

「鳴海、どうする?」

「報告したところで、どうにもならないだろうな。

 でも、あいつらと一緒になるのは危険かもな。タイミングをずらすか」

「そうだな。魔獣以外に人間にも気を付けるなんて、ストレスたまるぜ」

 俺達は戻り、エレベーターで上へ戻った。

 そして協会へ行くと、買取の順番待ちをしていたらしいハリーが、こちらを見てホッとしたような顔をした。

 やはり、あれはマイクに気を付けろという警告だったらしい。

「大丈夫だったようだな」

「はい。

 そちらも、ケガは?」

「大丈夫だ。どうするか決めたのか」

 俺達は少し考えた。

「録画しておこうかと思うのと、できれば、向こうとは違う時間帯に行った方がいいかとも」

「そうだよな。あんな誤射、あるわけがねえもん」

 采真は口を尖らせた。

「それでも、後から来られると一緒だ。気を付ける事だ。2人なんだからな」

「はい。ありがとうございます」

 それでハリー達の順番が来て、ハリー達はカウンターへと歩いて行った。

 その時、マイク達がロビーに入って来た。

 ケガをして、回復させたという感じだ。

 3チームが視線を絡ませ、ピリピリとした空気が漂う。それに、居合わせた探索者達が、首を竦めるようにして落ち着かなさそうにしている。

「最深階に3グループが揃ったか」

 誰かが小声で言うのがやけに響き、マイクの眉がキュッと寄る。

 そして、この男も不機嫌そうに溜め息をついた。

 支部長のビルだ。

「そうか」

 ビルが、「おもしろくない」という感情も露わに言った。

 そして、ロビー入り口にも、カイトがいた。こちらは秘書とボディーガードらしき男を連れて、涼しい顔で、にこにことしている。

「鳴海。何か、面倒臭い予感がするぜ」

「俺もだ。もう今日は、焼肉食べて寝よう」

 ゲートのこちら側には、うんざりする事が多すぎる。



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