第83話 スポンサー契約

 協会を出ると、カイトがにこやかな笑みを浮かべて寄って来た。

「初めまして。ブライトン社の探索部門責任者で、カイト・ブライトンと申します。少しお時間をいただけないでしょうか」

 そう言いながら、話をする事が決定しているような雰囲気だ。

 指名依頼かも知れないので、話を聞いてみる事にした。

「我が社は、ウェア、インナー、バッグ、シューズ、防具、武器、探索装備品全般を扱っております。それで、高名な探索者チームの方に、我が社がスポンサーとしてバックアップさせていただけないかと思いまして」

 そういう話か。

 ハリー達もスポンサードを受けているが、ライバルでも同時にという事はある。例えばテニスでも、ウェアやラケットのメーカーは、何人もの選手と契約している。

「ありがたいお話ですが、武器は変える気がありませんので」

「あ、俺も」

 それに、カイトは穏やかに頷いた。

「ええ。武器はオーダーメイドのワンオフだというのは有名ですしね。

 防具やウェア、バッグはどちらのものを?」

 わからないだろうなあ。インナーはスーパーのプライベートブランド、グローブとバッグは釣りメーカーのもので、しかもバッグは、改造している。シューズと防具とウェアは近所の店のもので、ブランドロゴなどは付いていない。

「近所の、なんというか、行きつけ的な?」

 采真がひねくり出した。

「では、武器以外のそれらを無償提供させていただくというのはいかがでしょうか」

 俺も采真も、困った。

「今のが使いやすいので……ありがたいお話ですが」

「バッグだって、大きさやデザインが変わると、急な何かの時に、引っかかったりするからなあ」

 俺達はやんわりとしながらも、はっきりと断った。

 カイトも「残念です」と言いながら帰って行ったたので、俺達はマンションに返り、日本へ戻り、焼肉を食べに行った。


 翌日から、実質3チームで、先を争う事になった。

 だが、ゲートをくぐり、改札まで来たところで、係員に止められた。

「まだクールタイムを消化していませんね。なので入れません」

「は?」

 何の事かわからないと言うと、詳しくは協会で訊いて欲しいと言われ、協会へ行く。

 すると、上機嫌のビルと、カイト、マイクがいた。

 嫌な予感しかない。

「クールタイムとか何とか言われたんですけど」

 それに、ビルが楽しそうに答えた。

「魔獣が強くなってより戦闘が激しくなる深部の未成年者は、探索時間の制限の他に、迷宮を出た後、一定時間を過ぎなければ次の探索はできない事になった。

 それと、夜間の探索も禁止する。

 何せ、未成年者だからなあ」

「鳴海。意味が分からないぜ。中は何時でも一緒なのに」

「ただの嫌がらせに意味を求めても無駄だ、采真」

 溜め息がでる。

「嫌がらせとはひどいな」

「しかもいきなりって」

 するとビルがすっとぼけた。

「言ったぞ?各メーカーに、契約している探索者に、意見を訊いてくれって」

 それにカイトが、

「深部へ行く探索者は、まあ、どこかと契約しているものですからね」

と笑う。

 だから契約しておけば良かったのに、と言いたいわけか。

「若い者の方が集中力が持続するし、若いうちに始めた熟練者と後から始めた成人とどちらが危ないですか。それに、経験を中途半端に積んだあたりが一番危ないのは常識ですよね」

 言うが、ビルは、

「新しい規則として決定した事だ。意義があるなら文書で正式に申し入れてくれ」

とニヤニヤする。

 マイクは嬉しそうに笑って、

「まあ、ガキは休んでろ」

と高笑いした。

 采真は歯ぎしりするし、俺も悔しいが、どうしようもない。

 渡された新規則が印刷されたプリントを見ると、次に迷宮に入れるのは明日の朝という事になる。

 周囲を見て見ると、係員は、目をそらす者とニヤニヤする者が半々。探索者達は、ほとんどが成人で、我関せずという顔をしていた。

 そこに、ハリーの声がかかった。

「若い子ほど前日の疲れも抜けるでしょう?クールタイムは従来通りでいいのでは。それに、中の明るさも集中力も、彼の意見に同意しますよ」

 それに、全員の注目が集まる。

「何を――!」

 カイトが慌て、ビルとマイクが舌打ちをする。

「おいおい。とんだお人好しだな、ハリー」

 マイクがイライラも露わに言うと、ハリーはマイクを見て、

「普通の事を言ったまでだ。

 恐らく世間の人も同じ事を言うんじゃないか?」

と言い、それでビルとカイトは、そこに記者がいるのに気付いた。

「何で入っている!?ロビーに記者は、発表なんか以外は入るのは禁止だろうが!」

「え?新しい規則が発表されたんですよね?」

 記者達がキョトンとして言い、ビルはぐっと詰まった。

 それでビルは不機嫌そうに、

「ああ、わかったわかった。もういい。この規則は撤回だ。さあ、出てった出てった!」

と言いながら手で追い払うような仕草をして、奥の部屋に引っ込んで行った。

「ハリー、助かりました。でも良かったんですか。睨まれますよ」

 ハリーは相変わらずの仏頂面で、

「別に肩を持ったわけじゃない」

と言って、大股にロビーを出て行った。

「いい人だな」

「俺が女なら惚れるぜ」

「ああ。

 それにしても、ゲートの外側には面倒臭いゴチャゴチャが多いな」

 俺達は溜め息をついて、ゲートに向かった。




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