第84話 ドキドキ

 俺と采真は、探索終了後、ルイスとエマと一緒に食事をしていた。

 エマから、妨害を受けてるそうだけど大丈夫か、と連絡が来て、食事がてら、あった事を説明したのだ。

「そんな事が?なんというか、せこいな」

 ルイスが呆れた。エマも呆れ果て、肩を竦めた。

「まるで子供ね。

 それ、本部に訴えたらどうかしら」

 探索者協会は各迷宮のそばにあるが、それを統括する本部がスイスにある。

「未成年者の保護とか尤もらしい事を言いそうだけど、メーカーに、所属してる探索者に意見を訊かせた時点でおかしいよな」

「ビル、焦り過ぎだぜ」

 俺達は言いながら笑ったが、ルイスとエマは真剣な顔で言った。

「気をつけた方がいいぞ。自分の所とスポンサー契約しているチームが初踏破すれば、売れ行きが大きく変わる。ブライトンがこれで妨害を諦めたとは思えない」

「それに、マイクのチームは悪い噂が多いわ。それも、デマなんかじゃなく、本当の事みたいよ」

 魔獣と間違えたとかいう言い訳で誤射された事を思い出す。

「気を付けます」

「そうだな。あいつは油断ならないぜ」

「ハリーだって、全くのいい人って信用し過ぎるなよ。一応軍は除隊してるが、つながってるという話も聞く。アメリカの威信にかけて何とかしろとか言われたら、わからないぞ」

 ルイスが心配そうに言うと、エマも頷く。

「そうよ。あそこは何かあっても捜査の手が入らない所よ。ああ」

「エマ」

 事故を思い出したように頭を振るエマを、そっとルイスが気遣って肩を叩く。

「おお。わかったぞ」

「だろ?」

 見つめ合うエマとルイスは、ハッとしたように咳払いし、取り繕った。

「ええっと、何かな?」

「何でもない。でも、あれだな」

「ああ。このケーキ、食べても食べても減らないのはどうしてだ?」

 アメリカのケーキはバカでかすぎた。


 そのルイスとエマの忠告は、ありがたく頭の隅に置いて、俺達は探索に望んだ。

 3チームが、抜きつ抜かれつという感じで進んでいる。

「ピョンピョンピョンピョンと!元気過ぎるだろ、お前ら!」

 言いながら采真も、ピョンピョンと飛びながらピューマの亜種のような魔獣を斬り捨てて行く。

 相手は風の刃を放って来るが、上手く采真はかわすし、俺が火を放てばよく燃える。

 終わって、采真に言う。

「器用だな。空中で三段跳びか?」

「へへへ。カッコいいかと思って。

 な、カッコいい?どう?」

「カッコいい、カッコいい。わあ、采真君素敵ー」

「照れるぜ、鳴海ちゃん。

 なんでここに女の子がいないんだろうなあ」

 ぶつぶつ言いながらも、魔石をボディバッグに放り込み、次に進む。

「わ。何だ、これ」

 細い通路の両側が切り立った崖になっていて、下まで20メートルかそこらはある。そして前方はその通路が途切れ、向こう側の通路までの20メートル程の間に、転々と岩が点在している。

 この小さな足場とも言えない程度の岩の頭を、跳んで、渡るしかなさそうだ。

「あの、片足がやっと乗るくらいの面積しかない岩を、跳び伝って行くのか?」

「だな。ロープとかがあれば、もう少し安全に行けるだろうけど?」

「行こうぜ!」

「わかった。

 こういう時のドキドキが、恋だと錯覚を起こすらしいぞ」

「つくづく、何でここにかわいい女の子がいねえの?」

 采真は言いながらも、岩を跳び始めた。

 俺もその後を追う。

 と、俺達は真ん中あたりで止まる羽目になった。

「マイクだぜ」

 前方に、ニヤニヤとしたマイクが姿を現したのだ。隣にいるチームメイトは、杖をこちらに向けている。魔術士らしい。

 背後を見れば、そこにも隠れていたらしいマイクのチームメイトの魔術士が、杖をこちらに向けて立っていた。

「鳴海。このドキドキは錯覚じゃないよな」

「ああ。間違いなく、ピンチのドキドキだな」

 逃げ場がなかった。



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