第85話 退路無し

 マイク達は、皆、ニヤニヤとしていた。悪い事だとも思っていないようだし、初めてという感じがしない。

「通してくれないかな」

 言ってみるが、当然、拒否だ。

「邪魔者は排除しないとな」

 ただでさえ足場の悪い場所だ。しかも完全に振り返れないのに、正面と真後ろから狙われている。どちらか片方は防げても、片方は喰らう。

 逃げ場所もないし、防ぐ手立ても無い。

 参った。

 と、前と後ろから何かが飛んで来たので、それをお互いに切ると、粉塵のようなものがパッと飛び散り、かかった。

「ゲッ、何だ、これ!?臭い!」

 采真は嫌そうに顔をしかめているが、俺は青くなった。

「まずいぞ。これ、誘淫剤かも。資料で読んだだけで実際は知らないけど、魔獣を呼びよせる臭いらしい。昔これを作って魔獣を討伐しようとした奴がいて、まいたら魔獣が寄り集まっただけでなく、見境なく交尾しようとして来たらしくて、大変な事になったらしい。それ以来、禁止薬物になっている」

 采真は絶句し、マイク達はゲラゲラ笑った。

「何から来るかなあ?モテモテだぜえ、良かったなあ。ヒャハハハハ!」

「肉食系彼女よりも、大人しい彼女が好みだぜ!」

「諦めろや。

 あ、チンパンジーみたいなやつが来たけど……オスでしたあ!!」

 俺は、岩伝いにこちらに来るそいつらが、股間を膨らませているのを見てしまった。

 眩暈がしそうだ。

 しかし、ここで眩暈に襲われていても、やつらに襲われるだけだ。それだけは御免こうむる。

「采真!」

 言うと、采は肩越しに俺を振り返った。そして、やろうとしている事を分かったのか、引き攣った顔のまま頷いた。

「OK!」

 それで俺は斜め前へ、采真は斜め後ろへ振り返りながら、跳んだ。

「お、彼女にされるくらいなら死んだほうがましってか?」

 マイクのせせら笑う声が遠ざかる。

「覚えてろよおおお!!」

 采真が叫びながら空中で俺にくっつく。

 俺は魔銃剣を下に向け、魔式を準備した。そうしながら、落下していく。そして、落下地点目指して続けさまに引き金を引く。

 風の反射で落下速度が緩くなる。が、ふわりというわけにはいかない。骨折や捻挫をしなければ良し、くらいのものだろう。

 着地後はそのまま転がって勢いを殺し、すぐに起き上がる。

 そして水を采真に浴びせかける。臭いを流さないと、魔獣が集まって来るからだ。

 采真の次は俺だ。物凄くやり難いが、何とか水をかぶる。

「臭いが取れたかどうかわからんな!」

「こいつらが来なくなったら取れたって事だな!」

 言って、そこまで迫って来たオオカミもどきを斬る。

 クマも、大型のトリも、アライグマも来ていた。

「絶対に、許さねえ!!」

 俺達は必死で戦いを始めた。

 斬っても斬っても次が来る。

 だが、ようやくあたりが魔石だらけになって、俺達はへたり込みそうになった。

「怖かったぜ。マジで」

「あれ、禁止になるはずだよな」

 ホッとしたら、次は怒りがわいてきた。

「あの野郎。同じ目に遭わせてやりたい」

「ああ。このままにはしねえぜ」

 取り敢えず魔石を拾いながら、辺りを見る。

 断崖を上って上の通路に戻るのは無理そうだ。

 今いるのは20メートル四方の小部屋という感じの所だが、先の方に、小さい穴が開いている。

「あそこしかないな。行くか」

「よし、行こうぜ」

 俺達はトンネルの中に入った。


 まだ臭いがする気がしたので、何も気配がないのを幸いと、そこの大岩に爆破の魔術で窪みを作り、水を張り、警戒しながらそれに入った。水風呂だ。

「臭い、取れたかどうかわかんねえなあ」

「服、洗濯して使えるかな」

 言いながら頭まで何度も水に使って洗い、着替えていると、何か生き物の近付いて来る気配がした。

 すぐに険と魔銃剣を構えてそちらへ向ける。

「あ」

「生きていたか」

 武器を構えたハリー達がそこに立っていた。


 


 

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