第64話 キメラの倒し方

 俺と采真はキメラと睨み合っていた。

「頭か体をやられると、入れ替わって、元気な状態になるらしいな」

「永遠に繰り返しかよ」

「同時にやればどうだ?」

「同時か。よし。担当はどうする?」

「牛の部分に氷は刺さったが、虎に風は効かなかったし、火は付いた」

「わかった。俺が牛だな」

「ああ。ホルモンは要らないから、遠慮なくやれ」

「わかった!」

 小声で打ち合わせ、ちょっと誘うと、キメラが走って来た。

 俺は虎の顔に火を叩きつけ、同時に采真が心臓に剣を突き立てる。

 キメラは一瞬硬直し、忙しく体色を替え、そして、虎の頭と牛の体で、どう、と倒れた。

「死んだか?」

「死んだぞ!」

「よし!」

 俺達はワッとキメラに近寄ると、虎と牛の縞模様になっている首の皮を剥がした。

「毛の下の皮もこの模様か」

 ちょっと眺めて、残りをボディバッグに入れてしまう。それから氷の壁を消した。

「やったのか?」

「あ!虎と牛の縞模様の皮!」

 探索者が采真の手の皮を指さし、盛り上がった。

 マリオ派のやつは、悔しそうにしているが。

「さあ、協会に戻るか」

 俺と采真はエレベーターへ向かった。


 ロビーで、俺と采真とリタとカルロスは、副支部長の言葉に耳を疑った。

「はあ?ダメって、何でです?」

 副支部長は縞々の皮とセイレーンの尾びれと将軍の人形を前に、言った。

「頭が虎で体が牛だった時かどうかわからないからだ」

 これには、唖然とした。

 副支部長の後ろで、マリオが薄く笑っている。

「録画をチェックすればわかるはずだ」

「映ってなかったぞ。機械が故障してたんだな」

 堂々と言った。

 なんてやつだ。

 取り囲んでいた探索者や取材陣は、ガッカリしたり喜んだり様々だ。

「副支部長。それでは彼らにあんまりです」

 カルロスが堪り兼ねて言うが、副支部長はカルロスに目もやらずに言う。

「事実だ。どちらが頭かで、動きも違うしな。それに機材の故障は、私が壊したわけじゃない。

 ああ、惜しかったな」

 マリオの方は、キメラの皮と人形が揃っている。お互いに残り1つを手に入れるなら、セイレーンの尾びれの方が確実に早い。

「副支部長のやり方には、公平性にも疑問があります。支部長に、いえ、探索者協会本部にこの件を報告します」

 カルロスが言うと、副支部長はカルロスを睨み、怒鳴りつけた。

「上司に逆らうのか!お前はクビだ!」

「横暴よ!」

 リタが怒るが、副支部長とマリオは涼しい顔だ。

「機械を壊したのは自分じゃないのかね。不正を隠蔽するために」

 俺は、はあ、と溜め息をついた。

 そして、ボディバッグから、キメラを出した。

「頭が虎で体が牛の状態でした。これでよろしいでしょうか」

 皆が、それを見つめる。

 そして、ボディバッグを見た。

「何で……」

「こんな事もあろうかと」

 本当は、食べようと思ったからだけどな。ああ。返してくれるかなあ。

「レコーダーも借りた時のままですよ。

 まあ、自前のレコーダーもありますし、討伐した時の目撃者もいますし、問題があるとは思えませんが」

 副支部長はうろたえ、血の気の引いた顔でマリオを見た。

 そのマリオも、唇を引き結んで、俺達を睨んでいる。

 が、ふっと肩を竦めて見せた。

「いやあ、大したもんだ。ガキだと侮って悪かった。

 それで、ああ、初めてのラブレターか?最後に洩らした時か?」

「いいえ。あなたは、同じ事を自分がされたら心から嫌だと思う事を人にしましたか」

 マリオは表情を消した。

 ザワザワとする。

 その中で、マリオは笑って見せた。

「無いとは言えないな。誰だってあるだろ?友達にイタズラしたりさ」

「死ぬ程嫌な事と聞いたんですがね。

 ヤコポはどうですか。あなたは、人をはめるのを見た事がありますか」

 ヤコポがビクッとして、マリオを見、慌てて目をそらす。それにマリオが、舌打ちをした。

「リカルド。あなたは卑怯な行いをするのを見た事がありますか」

 リカルドは、

「マリオさんは違う!」

と叫び、副支部長が口を出した。

「待て。なぜ彼まで」

「マリオのチーム、という事でしたので。

 ああ。ほかにもたくさん、迷宮内にいましたね。妨害も、将軍係も、キメラ探索も。記録もありますよ。

 そこのあなたは、不正の噂を聞いた事はありますか。

 あなたは、このチームが新人を未情報の魔獣に当てて先に情報を取るのを知っていましたか」

 悲鳴と怒号が沸き起こり、副支部長は震え、そこは混乱した。






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