第63話 キメラはどこに?

 キメラを探して、ひたすらウロウロする。20階に来ると、ボス部屋から出て来たグループが肩を落としていた。

「また魔女だ。クソッ」

「俺達はひたすら将軍が出るまでアタックする係だ。やるしかない」

「そうだな。認めてもらえれば、マリオ・ルターのチームに入れてくれるんだからな」

「さあ、やろう!」

 そう言って、部屋の前で肩を叩き合っていた。

 俺達はそこを離れ、言い合った。

「将軍は手に入ったも同然だな」

「でも、録画されてないから、倒したとは証明できないぜ」

「向こうは『チーム』だ。それで、カメラは2台。持ってないチームメンバーがやったというんだろ。

 もしくは、今の奴が録画してて、そのデータを使うとか」

「汚ねえな」

「それをギャフンと言わせてやるんだ」

「鳴海ちゃん、かなり怒ってる?」

「鳴海ちゃん言うな」


 キメラはどこだ。

 これまで目撃情報のあった階はバラバラだが、75階から85階に集中している。なので、この間を俺達はウロウロしていた。

 マリオの仲間と思われる探索者も見かけるが、向こうも見つけられていないらしい。

 それはそうと、マリオはどこにいるんだろう?

「いねえな」

「まあ、ちょっと落ち着いて食事でもして休もう。もしかしたら、匂いに釣られて出て来るかも知れないぞ」

 冗談を言いながら、階段に座ってバッグから弁当を出す。転移石を使って柏木に持って来てもらった、生野菜サラダとチキンソテー弁当だ。

 今度、ロブスターとかマグロとかをおすそ分けしよう。

「しかし、虎と牛か。エサで釣るなら、肉?それとも草?」

「頭の虎は肉食だけど、胃袋の牛は草食だよな。

 いや、地球の虎や牛とは別物だからな」

 言って、横に置いたサラダを取ろうとして、気付いた。

 デカい何かが、そこにいた。

「……采真。これ何だと思う?」

 むしゃむしゃとサラダのカップに口を突っ込んで食べている。そいつは、虎の頭に、牛の体をしていた。

「牛って、黒毛牛か。反射的に牛乳のやつを想像してたぜ」

 采真がそれを見ながら言った。

「ホルスタインか。牛っぽいな。牛乳パックに描いてある絵ってあれだもんな」

「だろ」

「これ、肉は黒毛和牛みたいなもんかな。まあ、和牛はないか。伊牛?」

 俺達は言いながら、静かに武器に手を伸ばした。

 と、キメラが慌てる。

「ブモオー、ガルウウ!?」

 サラダの容器に突っ込んだ顔が、取れなくなったのだ。

「落ち着け、な」

 暴れるキメラをなだめながら、

「いや、チャンスだろ」

と我に返った。

 風で首の切断を試みる。

 が、弾かれる。

 火か?焼肉だな。

「グオオオオオ!!」

 暴れてグルグルと回る。少し香ばしい匂いがした。

「やべえ。焼肉食いたい」

 言いながら、采真が剣を心臓の辺りに突き立てようとする。

 騒ぎに気付いたのか、探索者が寄って来た。

「キメラだ!」

 手を出そうとする奴を、別の探索者が止める。

 誰かが先に手を出していたら、危険な時以外手を出さないのが常識だし、それも一言断ってからだ。

「固いぜ」

「竜よりましだろ」

「それより逃がさないようにしたい。采真、氷で囲むぞ」

「わかった!」

 俺は、俺達とキメラの周りに氷の壁を作った。

 そこでやっとサラダ容器が外れて、キメラは自由になった。

 千切りキャベツが鼻の頭にくっついているのが笑える。

 だが、危険は本物だ。

「采真。ホルモン欲しいか?」

「魔獣のホルモンって怖くない?」

「だよな。じゃあ」

 胴を狙って氷の槍を撃ち込む。

 が、横っ飛びにキメラは除け、突っ込んで来る。

「鳴海!」

「闘牛はスペインだよな」

 言い、足元に魔術を撃ち込んで穴を掘り、地面に潜り込む。そして、真上を通過するキメラに氷を撃ち込んだ。

「グロオオオオ!」

 鳴いて、足を折る。

 と、頭と体の模様が入れ替わった。

「はあ!?」

「器用なやつめ」

 今度は口から涎を垂らしながら、采真に飛び掛かって行く。

 采真がそれよりも早く横へ飛び、すれ違いざまに頭に斬りつける。

「ブモオオオ!」

 頭を振って、血を流しながらも、俺達を憎らし気に睨む。

「なあ、采真。これ、どうしたら死ぬんだ?」

「それ、俺も訊こうと思ってたところだぜ」

 キメラは、トラの頭と牛の体に戻っていた。




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