第26話 宝玉の行方
俺と采真は買い物を済ませて帰り――チキンカツカレーになった――、カレーを作りながら説明をしていた。
「支部長室で、急にあの石が落ちて砕ける幻影が見えたんだよな。それで手を出したら、石が本当に落ちる所だったんだ。
じゃんけんも、次に鳴海が何を出すかよく考えたら、鳴海がチョキを出すのが見えたから、俺はパーを出してみたんだ」
「何でパー?勝つならグーだろ」
「それじゃあいつも通り俺が勝っちゃうだろ」
ああ、そうだな、くそ。いつか10――いや、5?いやあ、3、3連勝してやるからな、采真!
俺は密かに闘志を燃やした。
「未来が見えるって、いつもなのか?それと、どの位先までわかるんだ?」
采真は考え、
「取り敢えず、競馬の予想をしてみたけど、わからなかったな」
「おい」
「それに、いつも見えるわけじゃないなあ。じゃんけんは見ようとしてみたら見えた」
俺はううむと考えた。
「見えるのはほんのすぐ後か。完全に任意によるのかどうかはまだわからないな。
取り敢えず、これからじゃんけんはだめだな」
采真は即、不満を訴えた。
「何を出すかわかるんならだめだろう」
「どうせ鳴海負けるじゃん」
グッ、おのれ……痛い所を……。
「クイズとか」
「絶対に鳴海が勝つだろ、それ。
そうだなあ。腹筋30回勝負」
「場所によってできないし」
「クジ?コイントス?」
「ううーん。これというものは、采真が見えそうだしな。
采真がズルしないという倫理観を強く持つしかないな」
「わかった!俺も男だ。卑怯な真似はしない。どうせじゃんけんしたら、俺の方が勝率高いしな!」
「くそ、反論できない!」
俺達は真剣にそんな事を話し合った。
「実は俺も、ちょっと違和感を感じてるんだ」
「ん?」
「確かに俺は、効率のいい魔式を組み立てるためにと色んな知識を詰め込んでるよ。魔術関連に関しては専門的で高度な内容も集めているし、魔銃剣の基本設計のために魔法工学も勉強したよ。
でもな、あんな系統違いの魔式は知らなかった。現に、最初あの石に魔素を流した時は、魔式をあそこまで読めていなかった」
采真が、首を傾ける。
「ええっと、つまり、急にわかるようになったって事だ」
「おお、なるほど!」
采真はポンと手を打った。
「いつから?」
「今日気付いた」
「同じか。何でだろうな」
「それと、この前大量に魔素の弾を使い切ったから、補充しておこうと思って魔素をこめてたんだが、昨日の晩、いつもならとっくに限界が来るはずの量を超えても、まだ平気だったんだよな」
続けると、采真ははたと動きを止めた。
「え?」
「最近2人共が経験した変わった事と言えば」
「言えば?」
「幽霊退治だろ」
カレーの火を止め、采真とリビングの座卓に座る。
「俺さあ、あの騎士にハグされた時、何か違和感あったんだよな。でも、幽霊だし、ハグってのも初めてに近いしさあ。気のせいなんじゃないかと思って。
鳴海はどうだった?」
俺は溜め息をついた。
「俺もだ。ハグそのものが日本人的にはないし、幽霊だし、幽霊とは言え女の人だし、そういうのでこう、変な感じがしたのかな、と」
俺達はしばらく黙って考えた。
「やっぱりこれだな」
「そうか?そうかぁ。そうだよなぁ」
「守ってたはずの宝玉2つが無かっただろ。あのハグの時に、俺達に移ってたんじゃないか?」
「じゃあ、宝玉の力っていうのは、じゃんけんに勝つ――じゃないな。短い未来を予測する力と、魔式を読み解く力か?」
「今のところ、そう考えられるな」
采真は懐疑的な顔をした。
「そんな程度が、持ち出すほどの宝かあ?」
「でも、例えばお前が同じレベルのヤツとやり合ってたとする。一瞬でも先が見えたら、攻撃を避けるなり攻撃を仕掛けるなり、有利にならないか?
俺だって、相手の撃って来る魔術を読めたら、楽になるしな。それと単純に、魔力量が増えたのならかなり有利だ」
俺達は考えた。
「宝玉、出せとか言われないよな?」
「出し方がわからん。物理的な形として体のどこかにあるのかどうかもわからないしな」
「黙っておく?それとも言う?」
「ううーん」
誰に相談すればいいのか、そもそもしてもいいのか、深く悩む俺達だった。
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