第25話 小さな違和感

 無事に依頼を達成させ、協会に報告をすると、学者が飛んで行って調査を始めた。

 転移石の仕掛けは今後迷宮で使えそうだが、その他には、白骨が2人分あるだけで、大した収穫は無さそうだという。

 それを聞いて、俺達は言い合った。

「守っていたという2つの宝玉はやっぱり無かったらしいな」

「どこに消えたんだろう」

「時間経過と共に消えていくようなものとか?」

「あの2人があの世に持って行ったのかも知れないぜ」

「あ、まさかあの平たい石のことか?」

「ああ、2つだしな。うん、そうじゃないか」

 あれを宝玉と言って持ち出すほどのものかと言われれば微妙だが、1400年前の事だし、魔式もまだ未発達という感じがしたし、まあ、あれと考えるよりほかはない。

 研究者もそう越論付けたらしい。

 迷宮内に設置し、入り口と行き来できるようにするとの事だ。

 しかし、何階に設置するかでまとまらないと、協会へ報告書を提出しに行った時に聞いた。

「もっと作って各階に置けばいいんじゃないですか」

 そう言うと、支部長や親父さん達が嫌そうに言う。

「そりゃ、それが便利だろうよ。でも、入り口に各階分の石をズラーッと並べるのか?その前に、どうやって量産するんだよ」

「魔式を複製して刻めばいいでしょう?それで、迷宮内の方は入り口に戻るの一択でいいし、入り口の方は、飛ぶ階数を選べるようにすればいいだけでしょう?」

 そう言うと、協会の魔術士が苦笑した。

「それができれば苦労しないけど」

「え。ちょっと魔式をいじればいいだけだし」

「その魔式が読めないから困ってるんだし」

「は?何で?読めない?」

 俺と魔術師は、お互い奇妙な顔で見つめ合った。

「もしかして、魔式が読めるのか?」

「はい」

 それで、彼らが身を乗り出した。はずみで、テーブルの上に置いてあったその石が落ちる。

「わっ!」

 それを采真がキャッチする。

「ナイスキャッチ、采真」

「いやあ、落ちる気がしたんだよな!」

 落ちて割れでもしたらえらいことになっていた。魔術士と支部長の顔が青い。

「読めるんだな!?」

「はあ」

 詰め寄って来る彼らに、逃げ腰になる。

 采真がなぜか得意そうに言った。

「鳴海は頭いいな!」

「魔術を使うためには魔式が重要で、その魔式を効率よく組むためにはどうしたらいいか、とにかく知識が必要だから、詰め込んだだけだ」

「それで成績が良かったのか」

「それは副産物だな」

 呑気に喋っていたら、魔術士が掴みかからんばかりに割って入って来た。

「やってみて!」

「はあ」

 石に手を置き、軽く魔素を流す。そして、発動した魔式を紙に写し取る。

「系統が違いますし、無駄も多いですけどね。

 ええと、この部分が行先ですから、これをパソコンなり何なりにつないで、階数を選べるように――」

 言いながら、自分でもおかしいと思っていた。

 俺は最初これを見た時、これが読み取れただろうか?いつから読めるようになったんだった?

 俺は何となく、不安が湧き上がって来るのを感じていた。


 協会を出て、2人でスーパーへ寄る。今日はカレーだ。

「鳴海、何カレーがいい?」

 何か考え込んでいた様子の采真が、そう訊いて来た。

「チキンかな」

「俺はカツ乗せのビーフカレー」

「じゃんけんだな」

 そこで采真は、変に真面目な顔をする。

「じゃーんけーんで、ほーい」

 俺達は、お互いの手を見たまま、固まった。

「……勝った?え、勝った?」

 確認する俺に、采真はやけに嬉しそうな顔になりながら、言う。

「鳴海!間違いないぜ!」

「は?ん、まあ、そうだな。今日はチキンカレーだな」

「そうじゃなくて!俺、超能力に目覚めたかも!」

 俺は、まじまじと采真の顔を見つめた。

「采真……唐突にどうした?」

 ストレスか?何かに憑りつかれたのか?

「俺、未来予知ができるようになったぜ!」

「……はあ?」

 俺はかなり不安になって来た。


  



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