第45話 正座

 翌日は、大騒ぎになった。

 魔人に捕えられていたのを息子達が奪還してきた、というのは、誰もが飛びつくお話だ。

 しかしその裏では、俺達にはカミナリが落とされていた。

「それは保留って言ってたよな?」

 支部長が頭を掻きむしって怒ると、パラリと髪が落ちた。

「あんまり掻きむしると髪によく無いですよ」

 采真がたまらずにそう言うと、案の定、

「だったら大人しくしとけよ!」

と言われた。だろうな。

 今の所、俺達以外に一番奥に辿り着いた探索者は、グループが1つらしい。しかし、それ以上は行かないようにとの命令に従っているそうだ。

「しかし、考えたな。ゲートも通らずに行けば引き戻されないとは」

 感心したように、環境省――ゲートは環境省の管轄で、魔術や武具類は文部科学省の管轄だ――の幹部は唸った。

「感心してる場合ではありませんよ。ゲートを通らないというのは、違法ではないですか」

 警察官が言うと、

「いや、『ゲートを通らなければならない』という法律はありません。実質、ゲートを通らずに入る方法が無かっただけで」

と支部の弁護士が言い、警察は、背もたれにどっかともたれて鼻から大きく息を吐いた。

「しかしものは考えようですよ。そのカエルの置物を使えば、そこまで踏破していない人間でも転移できる。すなわち、自衛隊の部隊を送り込む事もできるという事ですよ、万が一の場合には」

 防衛省トップが腕を組んで考え込む。

 俺と采真とリトリイは、部屋の隅で正座をしてその会議を眺めていた。

 足はとうに痺れ切って、感覚がない。

 リトリイは生まれて初めての正座がこれで、気の毒な事をしてしまった。きっと、正座を罰としか捉えていないだろうな。

「もしも、魔人がまたこちらへやってきて災禍を及ぼすようなら、我が国は、それを許すわけにはいかない」

 首相が言えば、別の政治家が、

「先に攻撃するわけにはいきませんよ。友愛党がうるさい」

と言い、別の政治家が、

「明らかに攻撃をしに相手が来るとわかっていれば、それを阻止するのは、先制攻撃ではないと思いますが」

などと言い、紛糾し始めた。

 俺達3人は部屋の隅で、忘れ去られている。

「そういうの、他でやってくれないかなあ」

「足がなくなったような気がしますよ。正座で足が消えたりしませんよね?」

「消えるのは感覚だけだ。後で嫌になるほど痛いから安心しろ」

「え、何ですかそれ。安心できませんよ、鳴海」

 小声で言い合っていると、不意にクルリと皆がこちらを向いた。

「へ?」

「実際のゲートの向こう側の様子と、魔人軍の戦闘能力について知りたい。

 自衛隊の数名を連れて、入り口付近だけでもいいから偵察して来てもらいたいのだが。

 それと、人族の代表と、共闘できないか会談を行いたいのだが」

 首相が言った。

「お前ら、勝手に自宅から行った事も、魔人とやり合って来た事も不問にしてくれるそうだから、協力して来い」

 支部長が言い、俺達は喜んで、

「ありがとうございます!」

「じゃあ、今からでもすぐに!」

と言いながら立ち上がりかけ、派手に転んだ。

「足が!足がぁ!」

「な、何なんですかあ、これはあ!」

 リトリイは泣きべそまでかいている。

「すまん。途中から、正座させてる事を忘れてた」

 支部長が半笑いを浮かべた。

 が、絶対嘘だ!

「あれ?何か、足が変だよ?」

 リトリイが言う。

「血流が戻り始めたんだ」

「来るぜ」

「ああ」

「何が?」

「ジンジン」

「ジンジン?あ、これかな、これ……うぎゃああ!何だこれ!?」

 リトリイは涙を浮かべて悶絶し、俺と采真は無言で耐えたのだった。

 リトリイよ。正座の罰は、正座そのものだけでなく、解いた後もラウンド2があるのだぞ。







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