第46話 計画と計算外

 探索用の装備に身を固めたそれなりに探索を勧めている自衛隊員6人と、探索をしていない一般装備の自衛隊員4人と一緒に、カエルの所へ跳ぶ。

「おお……!」

「ここが異世界か」

 感動しているらしき彼らをおいて、俺達は警戒を怠らない。

「来るぞ、やつらが」

 言うと、隊員達はサッと緊張を取り戻した。

「来る、というと」

「来た!クリームシチュー!照り焼き!柚子胡椒チキン!」

 奴らが来る。

「唐揚げ!焼き鳥!チキン南蛮!」

 ここはあの、凶暴なニワトリのテリトリーだ。

「チキンカツ!チキンカレー!親子丼!」

 すなわち、俺達の狩場の1つだ。

 俺達はトリに躍りかかって行った。

 それで、思い出した。テストをするんだった。

「間引いて数は減らしました。チームでかかってみて下さい」

 誤魔化したら、上手く行った。

 隊員達は、片方は魔術もありでの戦い方で。もう片方は一般装備中心での戦い方。

 それを、危険になったら助けに入らなくてはいけないので、俺達は後ろから見守っていた。

「魔術を使って来ない魔獣なら、普通の隊員でも問題なさそうだな」

「ああ。じゃあ、牛みたいなやつならどうかな、鳴海」

 采真が言って、ニヤリと笑う。

「そりゃあ、確かめないとまずいな」

「ああ、まずい」

「あれは魔術も使って来ますしね」

 リトリイも言ってニヤリとし、俺達は仕留めたトリをゴミ袋に入れてバッグに突っ込み、

「次は魔術を使って来るタイプの魔獣を確認しましょう」

と笑顔で皆を、牛もどきの出た、村だった所に連れて行った。

 そして、用意して来た日本人形を設置していると、来た。

「ステーキが来たぜ!」

「ローストビーフ!」

「ビーフシチュー!」

 ついつい叫んで、叩きつけて来る風を防ぎ、火で焼き、切った。

 それをバッグに入れていると、恐る恐る隊員に訊かれた。

「あの、叫ぶのは関係ないですよね?」

「いやあ、食いたくて、つい!」

 采真が爽やかに答えた。

「あ、やりましょう!ほら!」

 同じように、隊員達にやらせてみる。

 ライフルなどは心許ないのと、魔術を防ぐ魔術士がいれば何とかなるのがわかった。

 ここはイノシシもどきも出る。今後が楽しみだ。

「魔獣は、迷宮でトレーニングすれば対処できそうですね」

 真面目な顔を作って、そう言う。

「はい。問題は魔人ですかね」

「そのためにも、同盟が組めれば心強い。結界に行きましょう」

 俺達は、人の集まる結界を目指した。


 案内人の手引きで結界内に入り、指導者には首相からの親書を渡す。同盟のお誘いと、そのための会談の申し込みらしい。

 3日後に返事を聞きに来る事になっているが、取り敢えず、指導者達が親書を読んで、軽く話をする間、待つ事になった。

 その間に、結界のそばに、預かって来たこけしを設置する。『日本国』と入った、妙に高そうなやつだ。

「こけしかあ」

「廃墟の村の日本人形もホラーだけど、荒野のこけしも、意味ありげだな」

 采真が楽しそうに言う。

「采真はホラー好きだよな」

「好きだぜェ」

「ボクは、『四谷怪談』をテレビで見て、とても怖かったです」

 リトリイは思い出したのか、青い顔をしてブルッと体を震わせた。

「俺は、イブの幽霊にハグされた時、びっくりした」

「ああ、あれな。ミイラもそこにあったしな」

 采真も神妙な顔で頷いた。

 その時、嫌な感じがして、俺はそちらへ目を向けた。

 瞬時に気が引き締まる。

「結界内に入って!早く!」

 隊員に言い、俺は皆とそれの間に入り、盾を重ねて展開した。

「何――うわあ!?」

 そこへ火も氷も雷も風も、色んな攻撃が集中し、爆音を轟かせ、砂煙を上げる。

「行って!庇う余裕がない!」

 砂煙が晴れる前に、こちらからお返しの攻撃を撃ち込む。

 それが晴れた時に見えたのは、いつかの魔王とただ1人残った幹部のケト、それと魔人兵達と獣人兵達だった。

「――!」

「行ってください!」

「くっ!」

 隊員達が結界に滑り込む。

「ラスボス登場だぜ、鳴海」

「計算外だな、全く」

「人生なるようにしかならないってね!」

「鳴海も采真も、呑気に何言ってるんですか、もう!」

 リトリイが嘆息する。

 魔王は憎々し気に俺達を見て、

「とどめを刺しておかなかったのが失敗だったが、安心しろ。今日は刺してやる」

と口の端を吊り上げた。


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