第42話 潜入、魔王城
森、草原、焼けた後の残る廃墟となった村。それらを通り、魔人や獣人兵をかわしながら、城へと近付いて行く。
朝ごはんにリトリイの用意してくれた弁当を食べ、昼はトリを焼いて食べた。塩味の焼き鳥だ。野生だからか魔獣だからか、歯ごたえも風味も素晴らしく、俺と采真は、これが片付いたら、ここに時々食材集めに来ようと相談したくらいだ。
そして今、夜闇に紛れて、魔人達の国の城に潜入していた。
警備などは獣人兵がしているのだが、獣よりは知恵が発達しているとはいえ、単純で頭はそれほど良くはないのが多い。なので、ちょっと気を逸らして潜入するのは簡単だった。
あとは、両親がどこにいるかだ。
「案内板くらい、設置しとけよ」
俺は小さく愚痴った。
それでも、研究は事故の危険性もあるし、端の方にあるんじゃないかとは思ったので、周囲から探っている。
城は、当然と言おうか、日本の城とは似ても似つかない。ノートルダム寺院を大きくしたような建物と校舎のような建物2棟が建っていた。
「向こうは兵舎みたいだね」
校舎のような建物を指してリトリイが言う。のんびりと歩く獣人が、校舎のような建物から出入りしていた。
「だとしたら、やっぱりこれか」
ノートルダム寺院もどきを見る。
人影は夜のせいか見当たらないが、きっと中には、いるだろう。
だが、意を決してそれに近付き、裏へ回る。
と、中庭を挟んで、小さめの建物があった。その周囲には畑らしきものがあり、ほかの建物には見られない、換気扇が付いているのが見えた。
「んん?」
「どうした、鳴海?」
采真が、木立の陰で足を止めた俺に訊く。
「いや、あそこだけ、換気扇があるからな」
それで、3人でそれを見た。
「換気扇って、日本で初めて見ましたよ」
リトリイが言う。
「じゃあ、あそこか」
「実験で、換気が必要になったりするからな。付けさせたのかもしれない。
でも、あそこは実験室の可能性が高いけど、今あそこにいるかどうかはわからないからな」
考えた。
「でも、行ってみようぜ」
「そうですね」
「行くか」
近付いてみると、その建物は2階建てで、全ての窓に鉄格子がはまっていた。それに、ドアの前には、見張りの兵士が立っている。
畑を見ると、色々な薬草が植えてあったが、なぜか真ん中に柿の低木が生えていた。
木の陰に隠れながら、3人でヒソヒソと言い合う。
「ここで間違いなさそうだぜ」
「どうやって助け出しますか?」
「あの見張りを、声を出させない内に倒すしかねえよ、鳴海」
辺りを見回してみて、俺は疑問に思っていた事を言ってみた。
「なあ。ここ、警備が緩すぎないか?セコムもアルソックもないのはともかく、警備している兵が、なんというかアホ過ぎて。わざと入り込ませて、そこから何か逃げられないようにしてあるとか」
采真はそれを聞いて、唸る。
「確かにな。ザル警備すぎるのは確かだ。ワナかと思うぜ」
リトリイは軽く嘆息した。
「それは誤解ですよ。長く人族は負け続け、あそこに閉じこもって守る事しかできなかったんですよ。獣人は物理的に強くて、人では敵わない。魔人は強い魔術を使うので、人では敵わない。
それで、ここへ攻めるとかいうのは、してませんから。確か最後にまともに戦闘があったのって、120年くらい前ですよ。歴史で習いました。
なので、彼らはすっかり安心しているんです」
言いながらリトリイは苦笑から悲しい顔になっていき、聞いている俺達も、やり切れなくなってきた。
「何て言うか、苦難の歴史だな」
采真がそう言って、リトリイの肩を叩いた。
「そういう事なら、油断しまくってる今、俺達が侵入して親を取り返したら、油断しなくなるんじゃないか?」
それにリトリイは、苦笑を浮かべて顔を振った。
「どうせ指導者達は、あそこで守りの姿勢を続けるしか考えていませんから。確かに、神獣と結界とで守る事だけはできるので。国土を取り戻そうという意見も過去にはあったんですが、今はほとんどいませんよ。宝玉を探しに行ったのも、家出して行ったんですから。
今回、宝玉をもってしても難しいとわかって、彼らはホッとしているんですよ、悲しい事に」
何と言えばいいのだろう。
「人間は、安定を望む生き物だからな。あそこでなら安全に暮らせるなら、それも一つの選択だろ。元の国を資料でしか知らない人ばかりだろうから、今生きている人にとっては、あそここそが故郷だろうしな」
「まあ、それはそうですね。ボクだって、宝玉を探しに家出してまで行ったのは、国を取り戻そうとかいうのじゃなく、おとぎ話みたいになっている先祖の話の真偽を確かめたいという気持ちでしたしね」
「んじゃ、やるか」
俺達は、気持ちを切り替えた。
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