第41話 合流

 連合国の拠点をまずは目指す事になり、徒歩で向かう。 

 歩きながら、俺達は色々と観察し、リトリイから説明を受けた。

 まず、ここは空気中にも魔素が多く、迷宮内よりもまだ多いかも知れないくらいだ。見かける動物も魔獣だが、大人しくて臆病なものもいる。植物も魔素を含んでいるためか、薬草もそこらへんに生えているが、雑草も無論ある。

 迷宮の出口付近は元サコルヌの領土で、隣のイド、その向こうのカルルの三国の生き残りで作る連合国は、イドの辺りにあるそうだ。

 一日の長さはほぼ地球と同じくらいとリトリイは言う。

「あと、そうだなあ。あんまり暑くないし、寒くもない」

「温暖という事か」

 俺が言うと、采真は、

「常春だな」

と納得したように頷いていた。

 そうして警戒しながら歩いていると、前方に人が現れ、こちらを指さした。

 それを見たリトリイが、ブンブンと手を振った。

「じいちゃーん!」

 そして走ってお互いに近付き、リトリイは拳骨を喰らった。

「勝手に書置きを残して上の世界に行くとか。お前という奴は!」

「ごめんなさい!痛い!反省してます!」

「ああ!?」

 俺と采真は、口を挟むに挟めない雰囲気に、ただそれを眺めていた。

 ひとしきりグリグリとされて涙を浮かべて、やっと解放されたリトリイは、俺達を紹介するという事をやっと思い出してくれた。

「鳴海、采真。ボクの祖父です。

 穴の向こうの世界の人で、世話になった人。魔術士の鳴海と剣士の采真。強いよ」

 それで俺達は、互いに挨拶し合った。

「鳴海のご両親が魔人に捕まってて、助けに行きたいんだって。ボク達、協力し合えると思うんだ」

 リトリイの祖父は俺と采真を見ていたが、

「とにかく、集落へ行こう。幹部に相談せんとな」

 そう言って歩き出し、俺達も後に続いた。


 神殿の総本山だったところを中心に都市が造られ、そこにヒトが住んでいた。そしてそこを守るのは神聖結界と神獣で、流石の魔人も魔獣も、この結界は破れないそうだ。

 俺と采真は、リトリイとその祖父に連れられてこの神殿に行き、中心人物達と面会した。

 都市は3つの国の代表者が運営し、会議と多数決で決められるという。

 そこで、俺達の世界の事、俺達が探索者をしている事、俺の親の事、そして、宝玉をどうやら受け継いでしまったらしい事を話した。

 代表者達は、興奮していた。

 彼らの間でも、イブ達の事は「昔話」となっており、本当かどうかは意見が分かれていたらしい。あそこに穴が開いた事は知っていたが、単なる洞窟だと思っていたようだ。

 しかし、魔王やロンドとやり合った時の事を話せば、落胆された。

 宝玉とやらに期待しても、魔王を倒せるほどのものではないせいだ。

「一緒に魔人と戦ってくれるのならありがたいが、せいぜい魔人の幹部クラス2人といったところじゃなあ。一気に攻勢に出るというのも危険だな」

 代表の1人が言った意見に皆が賛成し、俺達は、

「せっかくだし、言語が通じる魔術はかけておいたらどうだ」

という事で、それだけはして、待機することになった。

 確かに、リトリイ達との会話が、よりスムーズな感じにはなった。

 だがそれだけだ。

「どうする、鳴海。困ったな」

「まあ、予想の範囲内だ。

 良かったじゃないか。これで俺達は、バイリンガルだぞ」

「学校に行ってた時になりたかったぜ」

 俺と采真は、通された神殿の一室で頬杖をついて話していた。

 リトリイは、家族の所だ。物凄く危険な家出をしたのだ。今頃、無事に帰った事を喜び、そして、叱られているに違いない。

「防戦派が多いんだな」

「ここにいれば、結界と神獣で守られる。無理に国土を取り戻さなくても、という気持ちもわかるよ」

「中には攻撃してやろうというのもいるんだろ?そいつらと会って話すか?」

 少し考え、頭を振った。

「いや。中途半端だとやられるだけだろう。それなら、俺達だけで忍び込んで親を探し出した方が安全な気がする」

「行くか」

「ああ」

 俺達は、寝ておく事にした。


 早朝。俺達は、神殿を出た。

 まだ眠る街の中を歩き、結界の外に出る。

「清々しい朝だな!」

「あれが目的地か」

 魔王の住む城とやらが、遠くに見える。そこを目指せばいいのだから、迷子になる心配もなさそうだ。

「分かり易くて助かるな、鳴海」

「ああ。

 行くか」

「おう!」

 歩き出す。

 と、背後に気配がひとつ。

「おはようございます。置いてくなんてひどいですよ」

 リトリイだ。

「リトリイは残った方がいいだろう。宝玉のありかを確認するという目的は果たしたんだしな」

「そんな事言いますか。

 ほら、お弁当ですよ。3人分」

 俺と采真は顔を見合わせ、肩を竦めた。

「仕方ないな」

 俺達のチームは、まだしばらく続きそうだった。





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