第40話 いわゆる密出国

 俺はまず、カートリッジをありったけキッチンへ入れて、魔素の充填を仕掛けた。そして、カエルの陶器の置物と招き猫の陶器の置物に、転移の魔式を刻む。

 なぜカエルと招き猫なのか?深い意味はない。前の住人が開かずのキッチンに置いていた物だ。

 続いて、百円ショップで見つけて来たオモチャを眺めた。

 ボタンが2つ付いていて、武器で片手が塞がっていても使えて、緊急事態でもさっといつでも使える所に取り付け可能だったからこれにしたが、我ながら他に無かったのかと思う。

 まあ、仕方がない。

 戦隊ヒーローの変身バッジだ。ボタンが2つあって、2種類の神獣を選んで憑依させて戦うとか何とか。

 まず、赤いボタンを押してみた。すると、ピルピルピルという音がして、赤いランプがピカピカ光り、『鳳凰召喚』という合成音が流れた。

 青いボタンを押す。すると、ピルピルピルという音がして、青いランプがピカピカ光り、『青龍召喚』という合成音が流れる。

 俺はそれを無言で見つめた。

「カッコいいな!子供の頃、オレ、変身ベルト欲しかったんだよな!」

 采真がワクワクとして言う。

「でも、この年でこれはカッコ悪いだろ」

 俺は言うが、聞いちゃいない。

「日本のオモチャって凄いですね!どういう仕掛けだろう。それもたった100円で!」

 リトリイも興奮している。

 条件に合うものがこれしか見当たらなかったとはいえ……仕方がない。

 俺は青いボタンにカエルのシール、赤いボタンに猫のシールを貼り付け、各々に魔式を刻み込んだ。

 これを使わずに済む事を祈る。地球人の前では。

 それが済むと、キッチンへ移動する。

 奥の壁際に魔素の充填完了したカートリッジを並べ、魔王が使っていた魔式を綴り、発動させる。

「おおお!!」

 見事に穴が開いて、迷宮の壁が見えた。

「急げ!」

 俺達は穴から迷宮内に入ると、穴のキッチン側に招き猫をセットし、穴が小指くらいまで小さくなったところで維持の魔式を撃った。

「これで大丈夫か」

 昔、イブ達が脱出して来た時の穴が、いつも俺達が入っている迷宮だ。

 そして、横道になりかけてならなかったのが、うちの開かずのキッチンだ。

 このキッチンを本道とつなぎ、穴を開けた状態にしておくことで、簡易的ではあるが、うちのキッチンが迷宮の一部になっている筈だ。

 これで、ゲートを通らずに迷宮に入れた。なので、時間制限の仕掛けは作動しない。

 俺達は変身バッジをつけ、堂々とエレベーターで一番向こうへ行った。

 そしてそこに、隠すようにして、カエルの置物を設置する。

「よし。行こうぜ!」

「おう!」

「まずは、あいつらからだな」

 俺達はこちらを闘志満々で睨んでいる凶暴なニワトリに、飛び掛かって行った。

 俺と采真にとっては未知の地だ。

 俺達は、新しい1歩をここに踏み出した。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る