第39話 初踏破と各国の思惑

 迷宮内で見た事のある植物があったし、動物もいた。そして、魔素が濃い。

 迷宮内でも下の方にいた凶暴なニワトリが、俺達を見付けて睨んで来た。

「殺る気だぜ、鳴海。どうする」

「迷宮内と違って、消えはしないだろ。親子丼と照り焼きと唐揚げととりチャーシューにする」

「美味しそうですね」

「というわけだ。サクッときれいに殺るぞ」

 俺達は、石化の視線も鋭い爪の付いた強力キックもくちばしも避けながら、まずは俺が動きを止め、采真とリトリイが槍と剣で襲い掛かった。


 そして5分後には、持たされていた転移石を設置し、仕留めた凶暴なニワトリをバッグに入れ、入り口に転移していた。

 そして取り敢えず協会へ行くと、買取カウンターで順番待ちのカードを取りながら、向こう側に着いたのでエレベーターを設置して来たと報告する。

 窓口の係員もすんなりその報告を受けたが、後からジワジワとその意味に気付いたらしい。

 支部長が駆け下りて来、エレベーターの確認にもう1度門の向こうへ急ぎ、どこかへ慌ただしく電話をかけていたと思ったら、大騒ぎになった。


 俺達は座り込んで、偉い人達の会議の終了を待っていた。

 同盟を結ぶのかどうか、どうやって結ぶのか、内容はどうするのか。何一つ、決まってはいなかった。

「取り敢えず、腹減った」

 ロトリイが捨てられた子犬が通行人に縋り付くような目で見上げ、采真が、

「こんな事なら、戻って来ずにそのまま向こうにいとけば良かったな。

 もう、今からこっそり行くか」

と言い、俺が、

「誰かの目の前でこっそりなんて言ってる時点でこっそりは無理だろうが。

 トイレ行って来ていいですか」

と言いながら魔銃剣を手に立ち上がると、探索者組合の組合長をしている通称おやっさんが、深い溜め息をついて肩を落とした。

「どこの世界に、武器を装備してトイレに行くやつがいるんだよ。

 とにかく待て」

 そう言われて俺達は、カウンターで捌かれたニワトリを受け取り、ロビーに出た。

「会議で政府はどういう事に落ち着くんでしょうかね」

 リトリイは心配そうに言った。

「同盟の申し入れだとしたら、宝玉の件は当然出て来るだろう。そうなれば、俺と采真がメンバーに入るのは確実だ。

 同盟を結ばないとしたら、俺達の勝手にさせてもらう」

「ヒトの同盟軍に合流して、鳴海の親を助け出してロンドを殴る」

 迷宮踏破のニュースは、世界中に流されたらしい。それで采真が訊き込んで来た話によると、どこの国が主導権を握って魔素の溢れた世界の国と同盟を結ぶか、各国の思惑が入り乱れているらしい。

 それにしても、俺達の他にはまだあそこへ到達した者はいないので、送り込めるのは俺達だけになってしまう。なので、ある程度の人数が揃うまで、同盟は待とうという意見が強いという。

 数でも声の大きさでも、まあ、予想できる事だった。

「そんなの、待ってられるかよ」

「勝手に行くしかないな」

「でも、門の入り口から入って出るまで、時間制限ができたから、向こうへ行っても時間が経つと戻されてしまいますよ」

 探索者カードにそういう魔式が追加され、強制送還される事になっている。これは、探索者に探索の上限を定めても、違反金さえ納めればいい、という者がいたせいで取られた処置だ。

 しかしこれのメリットは、万が一中で死亡しても、時間が経てば勝手に遺体が回収されるというものだ。

 だが、今の俺達には、デメリットしかない。

「カードを置いて行けば――エレベーターが使えないか」

 采真が嘆息した。

「打つ手なしか……あ?いや……いけるかな」

 俺はそれを、思い出した。

「鳴海?」

「やってみよう。

 さて。そうと決まれば家へ帰るぞ」

「へ?」

 俺達は家へ向かった。


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