第38話 向こうの世界まで何階層?
魔人が地上に出て来るのは困る。その為、探索を進めて向こうの国と同盟を結んで魔人を倒せ。そういう声が日増しに高まっている。
勿論俺は、探索を急いでいる。
ほかの探索者達だってそうだし、同盟を考えての事だろう。自衛隊の中に探索チームを発足させて、探索を組織的に経験させている。
それでもまだ、トップである俺達やほかの2つのグループも、向こう側へは届かないでいるし、どのあたりにいるのかもわからない。あと何階層とわかればいいのに、焦りだけが湧き上がる。
それで時々、采真やほかの探索者に心配される。
リトリイも俺と同様だ。
大物だった竜を片付けた俺達は、息を整えながら魔石やウロコや爪などを拾い集め、水を一口飲んで、歩き出す。
焦るのは、ゴールがわからないからだけではない。
レイはどうにかなったが、ロンドも魔王も、歯が立たなかった。レイにしても、1対1だと無理だっただろう。これで、魔人と渡り合って、両親を助け出せるのか?
そんな戦いに、采真を付き合わせてもいいのか?
まあ、宝玉を取り込んでしまった責任みたいなものはあるかも知れないけど。
ずっとそれを考えている。
「こう、サクッと、いい感じに行けたよな!でもロンドにはまだ勝てないかなあ。くそっ!ああ、悔しい!」
采真が吠える。
「なあ、采真」
「ん?何だ鳴海?」
「これでいいのか?ロンドや魔王と今度やり合う事になったら、どうなるかは」
「何、弱気になってるんだよ、鳴海」
「弱気ってわけじゃ……」
采真は少し真面目な顔をして、足を止めた。そして、頭をガリガリと掻く。
そしておもむろに、言い出した。
「ジャンケンしようぜ!」
「何で?」
「何でもいいから――ああ、じゃあ、負けたやつが食事当番を2人分1日交代」
「はあ!?」
「がんばります!まあ、鳴海には負けそうな気がしませんけど」
リトリイもやる気だ。
ふん。やってやろうじゃないか。采真の最近の初手はグーの確率が8割で、リトリイはほぼいつもパーだ。
待て待て待て。1週間程度で采真の初手はローテーションするぞ。という事は、次はチョキなはずだ。
いや、そう思わせておいて――。
俺が頭の中で高度な戦術を組んでいる間にも、能天気な顔で、采真とリトリイは
「じゃーんけーんで」
と言い出す。
待て、まだ演算が途中で、こら、どうしよう。
「ほーい」
パー、パー、グー。俺が1人負け……。
「鳴海は考えすぎなんだって」
采真は苦笑して、言葉を継いだ。
「魔人の野郎には、ムカついてるんだよな。宝玉を取り込んでしまった責任とかも無い事は無いけど、どっちかって言えば、渡りに船?鳴海。あいつらぶっ飛ばして、親取り返そうぜ!」
「采真、いいのか」
「ああ?ロンドは俺がやる。アシストは頼むけど、俺がやるぜ。いいよな」
采真を見ていると、肩の力が抜けた。
「ああ。どつきまわしてやれ」
「おお!」
リトリイはにこにことしている。
「で、鳴海。明日はメンチカツ食いたい!」
「え?今のはじゃんけんにかこつけただけの」
「ええ?勝負は勝負ですよ。ね、采真!ボクはお寿司がいいです!」
「おう!」
「くそ!采真にしては高度なアレだと思ったのに!はいはい、わかりました!やりますとも!今日は予定通りに鮭の塩焼きで、明日はメンチカツで、明後日は棒寿司な!」
「やったー!」
「イエイ!」
采真とリトリイは喜んで、ハイタッチをしている。ああ、じゃんけんに強くなりたい!
でも、まあ、いいか。
「じゃあ、張り切って行こうぜ!」
「おう!」
「しっかり動いてカロリー消費しろよ」
俺達は軽い足取りで、下へ向かう階段を下り始めた。
そして、同時に足を止めて呆然と目の前の光景を見た。
「……鮭の塩焼きもメンチカツも棒寿司も保留になるかもな」
俺の呟きに、采真が同じく呆然として応える。
「おう、そうだな」
そしてリトリイが呆然としながら言った。
「代わりにボクが、ご馳走しますよ」
「おう、頼もうかな」
何せ、ここには何もツテがない。
そう。俺達はとうとう、迷宮の向こう側へ達したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます