第43話 人質奪還

 見張りの兵士は、大きな欠伸をした。

 緩み切ったその背後に忍び寄り、采真が頭を殴る。

「ふわああ――がっ!?」

 そしてドアのそばの椅子に座らせておく。

 見張りの時に椅子に座るって普通なのだろうか、という疑問は置いておいて、俺はドアを見た。開けると警報が鳴るというような仕掛けはないらしい。

 なので、風の刃でドアの鍵を壊し、俺達は中へ入った。

 日本とは技術が違うし、道具も違う。なので同じではないが、雰囲気は、研究室だ。

 奥に階段があるのでそれを上って2階へ上がると、紅茶か何かのカップを持つ両親がいた。

「え」

「え?」

「は?」

 お互いに、ポカンとして、相手を見た。

「休憩中?」

 訊くと、父は

「ああ。寝る前の一杯だ」

と答え、母は、

「そうよ。ハーブティーなの。コーヒーがないのね」

と残念そうに言った。

「何か、思ったよりもリラックスしてるね」

「時間になると研究室からここに追いやられるんだよ。日本にいた頃よりも、規則正しい生活だな」

「というか、何で鳴海がここにいるの?」

「いや、助けにきたんだけど。

 あ。相棒の采真とリトリイ。今、3人で一緒に暮らしてるんだ。

 と、そんな場合じゃなかった」

 リラックスして顔色もいい両親にホッとはしたが、予想と違っていたので、ドラマとかで見たような感動の再会とはならなかった。

 だが、何とか立ち直る。

「逃げよう。今なら見張りのやつも気絶したままだぜ」

 采真が言い、俺達は緊張感を取り戻した。

「研究資料を持ち出したい」

 父が階段を足早に降りて行き、皆が続く。

「宝玉の代わりになる物を研究していたとか聞いたけど」

「ああ、そう言われた。でも、柿が実を付けるまでは無理だと時間稼ぎをしていた」

 畑にあった低木を思い出した。

 ついでに、あの日の事も思い出した。

「そう言えば、襲って来た時、柿を食べようとしてたんだったっけ」

「そうよ。それで、柿を掴んだまま来ちゃったのね」

「それで、種を植えたんだ。これが必要だと言ってな」

「実がなるのは先だものね」

「ああ。桃栗三年柿八年だからな」

 父が胸を張って笑った。

 采真もニヤリとして、親指を立てた。

 この2人、気が合うらしい。

「じゃあ、何を研究していたんですか?」

 とリトリイが訊く。

「魔素中毒患者と魔術師を分ける仕組みの解明に着手した。これがわかれば、魔素中毒の治療になるからな」

「おお」

 俺と采真は声を揃えた。

「でも、血液検査さえできないんだぞ、ここの科学力は」

 父は悲し気に眉を顰め、続けた。

「だから、魔獣の魔石を使って、より効果を引き出す実験をしていたよ」

 言って、ノート類ををまとめる。

 それを、俺は片っ端からバッグに放り込んだ。

 そして忘れ物がないか周囲を見回した時、ドアが蹴破られた。

「貴様か」

 ロンドと魔人兵と獣人兵がいた。

 お互いに武器を構えて睨み合う。

「鳴海。あいつは俺にやらせてくれ」

「おう。じゃあ、俺とリトリイは残りだな」

 それで、いきなり戦闘が始まった。


 




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