第50話 ラテンの国イタリア

 飛行機から下りた俺達は、まず伸びをした。

 そして、預けていたカバンと武具を受け取り、軽く確認する。

「ん、異常無し。そっちは?」

「大丈夫だぜ」

 采真は答え、いそいそと剣を袋に戻した。イタリアでも武具を持ち歩く時には証明書が必要で、且つ、剥き出しで持ち歩いてはいけないのだ。

「ああ、イッタァリア!俺は彼女を作るぜ、鳴海!」

「ふうん。まあ、がんばれよ。

 さあ、行くぞ」

 俺と采真は空港を出て、まずはイタリアの探索者協会に向かった。

 イタリアの迷宮はローマ近郊にあり、協会もローマにあった。資料では海のエリアがあり、それが探索の進行を遅らせている原因だと言われている。

「海か。海の幸が手に入るかな」

 俺はほくそ笑んだ。考察と実験の末、迷宮内の魔物も、とある魔術を施せば、死体が消えて無くならない事がわかった。反対に廃棄するところは、迷宮に置いて来れば消えて無くなる。

 つまり、美味しい魔物は、倒したら、そういう魔式を刻むように加工してある俺のバッグに詰めれば、食料になるという事だ。

「カニ、イカ、タコ、伊勢海老。

 ん?ロブスターと伊勢海老って一緒か?住んでる所が違うだけか?」

「そうだろ。でも微妙だな。どの範囲が伊勢海老なんだろうな」

 首を傾けながら歩いて行くと、高い柵と改札口みたいなところがある。ゲートだ。どこもゲートの感じは同じらしい。

 こちらでも、ゲートの番を、軍人が行っているようだ。

 そしてその近くにある協会に着いた。美術館のようなきれいな建物だった。そこに、探索者達が出入りしていて、活気がある。

 庭も手入れがなされていて、花壇には色取り取りの花が咲いていた。

 そこをバックに、囲み取材のようなものがなされていた。

 取材を受けているのは大柄な男で、探索者らしい。幅広の剣を持って、自信タップリに何か言っているようだ。

「イタリアのトップの探索者かな」

「海外では探索者が芸能人みたいな活動をしたり、政治家になったりするらしいからな」

「へえ。日本でも地下アイドルみたいなやつはいるけど、やっぱ、日本とは違うんだなあ」

「ところ変わればってやつだな」

 小声で言いながら、邪魔にならないように後ろを通って建物の玄関を目指す。

 と、ヒョイとテレビクルーが振り返って、声を上げた。

「あ!日本のナルミ・シモムラとヤスマ・オトナシだ!」

 それで俺達は驚いて足を止め、ほかの取材陣が一斉に俺達を見た。

「ナルミ・シモムラとヤスマ・オトナシですね?イタリアの迷宮にチャレンジするという噂は聞いていましたが、本当だったんですね」

「え、はあ」

「日本の迷宮の攻略、そしてお父様とお母様の事、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 俺達は呑まれながらも、礼を言った。

「なぜ次にイタリアを選んだのですか?」

 それに俺達は、満面の笑みで答えた。

「本場のピザが食べたかったからです」

 なぜか皆、あはは、と笑った。

 そして、つい今しがたまで取材を受けていた探索者が、チッと舌打ちをした。


 協会のロビーに入ると、天井が高く、柱はやたらと装飾されていた。そして壁際には、色んな人の彫刻が並んでいる。

 日本とは雰囲気が違うなあ、と思いながら、とにかく手続きが先だと、カウンターへ向かった。

 海外の迷宮に入るには申請が必要で、魔石や爪や皮などそれから得られるものは全てその国の協会に売却する事になっているのだ。迷宮のある国の資源という扱いのせいだ。

 まあ、食材はその限りではないだろうが。

 それで、探索者免許証を出して、ローマの迷宮に入るための許可申請書を書かなければならない。

 が、順番が来たところで、免許証を出そうとしていると、後から来た男に押された。

「邪魔だ、退け」

 何だ何だと、そいつを見た。

 先程の探索者だった。

 ああ。最初から、面倒臭いやつに目を付けられたみたいだと、俺は内心で溜め息をついた。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る