第73話 反撃

 罠にかけるのは、ペクにした。こいつが一番調子に乗り易く、ビビリでもある。チョはクマなどが出る所まではいけないし、ハンはキムに近すぎて、相談でもされれば警戒されてしまう。ノは借金を返済した残りで旅行中だ。

 ペクは、手の届かないような上級者ランクの防具に目をくらませた。

「そうですか。良かった。では」

 防具を箱に入れ、ピカリと光を当てる。

 隣の箱には割れた防具が入っていて、こちらを先に光らせている。

「今のは?」

「最後の仕上げですよ。これで何の心配もいりませんよ。さあ、さあ!」

 有無を言わせずに、その防具を着けさせる。

 ペクは一瞬不安そうな顔をしたものの、高級防具の前には、吹き飛んだらしい。

 そして、俺と采真を万が一のエスコート役という事にして、俺達はゲートをくぐった。


 30階。ペクの到達階であり、大トカゲが程よく出て来る階だ。

「頑丈なのをアピールするために、クマに当たってみましょうか!」

「え?」

 ペクはギョッとしたようだ。

「まあ、クマは危ないですか。じゃあ、大トカゲで」

「はあ!?」

 ペクは、俺の顔を凝視した。

「大トカゲにやられたんですよね。その大トカゲに当たって大丈夫という事がわかれば安心ですよ。さあ!」

「さあ、さあ!」

 采真も言って、背後から腕をとって動けなくする。

「ま、まあ、大丈夫だよな?」

「はい。象に踏まれても大丈夫」

 ペクはそれで安心したらしかった。

 お誂え向きに、大トカゲが来た。

「そうだ。さっきの仕上げもできているでしょうから心配ないですよ」

 俺はにこにことして言う。

「ああ、あれ」

「はい。元の防具にかけられていた痕跡をまるまる、表も裏もコピーしてかける最新装置です」

「……は?」

 一気にペクの顔色が悪くなる。

 しかし、嘘だ。あれは本当は、ただの光だ。カメラのフラッシュを光らせただけだ。

「ま、待て。痕跡をまるまるコピー?」

 ペクは震え出した。

 俺は一層笑顔を深くした。

「はい。人によって、ありますからね。蒸れ防止とか、クッション強めとか、小さい盾をかけておくとか」

「俺は、そそそんな」

「来ましたよ!」

 采真が腕を拘束した形で、笑った。

「やめてくれ!」

「大丈夫、大丈夫」

 大トカゲが、こちらを見た。

「じゃあ、ちょっと向きを調整しましょうか。尻尾が当たるように」

 俺は大トカゲに近付いて行き、チョンチョンと攻撃を仕掛けた。それで、大トカゲは向きを変え、位置を変え、その度に尻尾がブンブンと振られる。

「ぎゃああ!やめろ!やめてくれ!絶対にだめだ!」

 ビデオカメラを持ったフィールドテスターは、そんな泣きわめくペクを執拗に撮影している。

「ええ?何で?」

 采真が楽しそうに訊いた。

「だ、だって、痕跡を全部コピーしたんだろ!?裏も表も!」

「それの何が問題なんだ?」

 ペクはゴクリと唾をのんだ。

 チッ。もう少しか。

 風を巻き上げて、大トカゲをペクの方へ近付けた。

 尻尾がブンとうなりを上げ、ペクの前髪がそよりと動く。

「壊れるような仕掛けをしてあったんだよ!」

 ペクが叫び、それを聞いた采真はペクを背後に転がして、唸りを上げる尻尾を切り飛ばした。俺は大トカゲの口の中に火を撃ち込んで燃やした。

 大トカゲが絶命するのを、ペクは震えて見ていた。

「ちゃんと撮りましたね?」

 テスターは、

「撮りました」

と笑う。

「え?何?」

 キョトンとするペクに俺達は笑顔で近付いた。

「さあて。どんな仕掛けを誰の指図でしてあったのか、話してもらいますよ。まあ、証拠も残っているのでわかっているんですけどね」

 ペクは真っ青になって、言葉もなく震えていた。





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