第72話 調査と実験

 店舗は休業状態で、誰もいなかった。

 俺達が行くと、ドユンが話をしていたものの、父親や防具部門の者がいい顔をしない。

 だが、どうせ倒産したら秘密も何も無いというドユンの説得で、俺達はそれを見る事ができた。

「こりゃあ、見事だな」

 パックリと割れており、断面から、素材などが重なっているのが見える。

「どうだ、鳴海」

「爆ぜたって感じかな。刃物で切ったようには見えないし、熱で溶けた痕も無い」

「じゃあ、買って帰った後、何回も何回も殴り続けたとか?」

「それができる根性があれば凄いよ。

 1人は1階でしたね。残る3人はどこで?」

「20階と30階と35階です」

「エレベーターのある階ばっかりなんだな。まあ、防具が破損した状態なら、すぐにエレベーターに乗れてラッキーだろうけど」

 采真が言い、俺は頷いた。

「ああ。その状態でウロウロしたくはないだろうな」

「やっぱり、あの4人が何かしたんですか!?」

 ドユンが勢い込んで言う。

「ちょっと気になる事もあります。ちょっとこれから迷宮に行って、35階まで調べて来ます」

 言うと、ドユンが「え」という顔をした。

「えっと、ソユンに付き合ったから、まだ5階までしか進んでないと、確か」

「俺達を誰だと思ってるんだ、ドユン?」

 采真がニヤリとする。

「その間に、その4人の調査をお願いします。つながりは無いか、戦闘スタイルは何か、経済状態はどうか」

 俺達はドユンの車に乗せて来た装備を付け、ゲートに向かった。


 シカやイノシシやイヌやゴリラなど、出て来る魔獣と地形的特色を確認しながら進む。

 昼食にと持たせてくれた海苔巻きで休憩しながら、俺と采真は話し合っていた。

「もう仕掛けはわかったんだな?」

「ああ。間違いないな。

 解説するとだな」

「あ、いい。詳しい事はいいや」

 采真は遮り、言葉を継いだ。

「4人のつながりが出てくれば、仕組まれた事だってわかるんだな?ソユンとドユンは上手くいくんだな?」

「たぶん。

 いいのか?ソユン、タイプなんじゃないのか?」

 それに、采真は苦笑して手も首も振った。

「ないない。韓流ドラマのお嬢様みたいだと思っただけで。

 タイプというなら、ハユンかな」

「ああ。ドラマの話も合うみたいだったしな」

「運命かも知れない。どうしよう」

「まあ、それはおいおい確かめて行けばいいだろ」

「そうだな」

 俺は何かを想像してニタニタする采真が、今度は失恋しなければいいのに、と思った。


 手早く最短で35階まで進み、ついでに協会ロビーで噂を聞き込んで、俺達はアン防具店の店員の車で店へ行った。

 例の4人の調査は、急いで行われていた。

 名は、ハン・ウソク、ペク・ソンヒョン、ノ・シンス、チョ・ジヌ。借金があったり家族が失業していたり、4人共経済的に困窮していた。それが4人共、事故の後、アン防具店からの補償以上に回復し、彼らの家族が3人、つい最近キムグループに就職していた。

 4人共魔術は使えないが、キム防具店のテスターには当然魔術士はいる。そして、キムグループの総帥の息子とハンが友人だった。

「状況証拠は揃ったな」

「後は手口だな!」

 俺は、防具に使われているのと同じものを準備してもらうと、それに魔銃剣を向けた。

「経験的に誰でも知っているだろう?高温と低温を繰り返すと脆くなるのは」

 それに、技術者が異を唱えた。

「もちろんです。しかし、温度での耐久実験は済ませてあります」

「それは、通常でのものでしょう?こんな風にはしないはずだ」

 言って、氷と火を交互に連発していく。

「どんな状況だって感じだよなあ」

 采真が笑う。

「これを何発くらいだろうな。まあ、やって、残っていた魔式を付与する」

「待ってくれ。残っていた魔式?」

 ドユンが聞きとがめる。

「ああ。表と裏に仕掛けたんだろうけど、残っていたよ」

 言いながら、その魔式を手動で綴り、素材の表と裏に撃ち込む。

 この時点では、見た目に異常はない。

「一定以上の衝撃を受ければ破裂するようにというものだった。

 1階で破損したと訴えたチョのものだけは、流石にウサギじゃ、裏まで衝撃が伝わらなかったんだろう。裏に刻まれた魔式がきれいにそのまま残ってるよ。

 さあて。チョ以外の3人がその時に受けた攻撃は、大トカゲのしっぽに当たったのと、イヌの体当たり。ゴリラの一撃でもクマの爪でもイノシシの突撃でもない。ほどほどに強いけど、そんなにスピードが避けられない程早くもない。あそこに行くランクなら、充分に加減して当たれる攻撃だと思わないか?」

 言って、そこにあったハンマーを振り下ろす。

「あ!」

 素材はきれいに割れた。

 それに群がる技術者達は放っておいて、俺は皆に言った。

「こういう奴を、俺は探索者と認めない」

「すぐに警察にサギで訴えを」

「白を切られたら、証拠が揃うか?」

 各々言い合う中、采真が言う。

「鳴海、何か考えてるだろ」

「申し訳なかったとか言って、新しい防具を与える。最上級の奴だ。断る気が起きないくらいのやつ。

 それをつけさせて、クマでもけしかけようか。それで、言うんだよ。『刻まれていた痕跡を全て完璧にコピーしてあります。表も裏も』と」

「鳴海ちゃん、悪いなあ」

「鳴海ちゃん言うな」






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