第34話 向こうの世界

 シンと静まり返り、リトリイの話を聞き漏らすまいと注意を向ける。

「知恵を持つ獣の国、我々ヒトの国、生まれつき魔石を宿した、ヒトの形をした魔獣の国。大きくわけて、この3つに分類されます。

 この中で一番野心的なのがいわゆる魔人の国で、昔から、戦争そのものを生きがいにするかのように戦い続けています。

 獣の国は、大人しい者達と好戦的な者達の2つに分かれ、大人しい方は、ヒトと棲み分けをして上手くやって来ました。しかし好戦的な方は、昔魔人の手下になって、それ以来魔人の兵として暮らしています。

 ここへ来る間にも、彼らをたくさん見ました。魔素の濃さからか、迷宮の外にはなかなか出て行かないようですが」

 魔獣の事らしい。

「ボク達はもうずっと昔から劣勢で、どうにかこうにか持ちこたえてはいますが、いつまで持ちこたえられるかわかりません。

 しかし、宝玉があれば、何とかなる筈だと思って、ボクは来ました。

 昔、魔人が城に攻め入った時、王は王女に、3つの宝玉の内の2つを持たせ、騎士を付けて逃がしました。宝玉が魔人の手に渡れば、世界は勿論、こうしたあなた方の世界のようにつながった世界まで、どんどん奴らの手に落ちるからです。

 何とか迎えに行くから、それまで宝玉を守れ。そう言われて、王女と騎士は、王妃が空間を操る宝玉でつないだこの世界に逃げました。そしてその穴は塞がれました。

 しかしその後、魔人の王に王と王妃は殺され、宝玉も奪われ、残った人は他のヒトの国にどうにか逃げ延びました。

 この王女に付き従った騎士は、ボクのご先祖様です。

 それでボクは、王女が隠した2つの宝玉を受け取りに、こっちに来ました。50年程前に、塞いでいた穴がまた開いたので、辿り着けると思って。

 この世界に、そういう話は残っていませんか」

 それで俺達は、互いに顔を見合わせた。

「ここから少し離れたところで、それと思われる昔話があって、調査の結果、2体の遺骨が発見されている。そこで2つの玉を発見はしたが……あれか?」

 支部長達は互いに顔を見合わせた。

 エレベーターの石。確かに物凄く便利ではあるが、戦局を左右するほどの力があるとは思えない。

 しかし、リトリイは身を乗り出した。

「本当にあったんですね!?」

「ああ、まあ。

 その2つの宝玉というのは、どういうものかわかっているんですか」

「はい!1つは、魔力増し、魔式を瞬時に解析でき、綴る事ができるものです」

 俺の背中を冷や汗が流れた。

「もう1つは、数秒先を読む事の出来るものです」

 采真の目が泳いだ。

「いや?見つかったのは、片方の石に魔力を流すと、もう片方の石の所に転移するというものだったが?」

「え?」

「どっちも丸い石だったが……なあ?」

 皆が、うんうんと頷き、リトリイが、わけが分からないという顔をする。

 その中で、支部長が俺と采真に目を向けた。

「きっかけになった幽霊の調査に出向いたのはお前達だったな?」

 全員の視線が、俺と采真に集中した。

「う……はい。イブという姫と騎士の幽霊に、同じ話を聞きましたよ。な、采真」

「うんうん。丸い石以外、見当たらなかったよな、鳴海」

 俺達はうんうんと頷き、言葉を継いだ。

「その宝玉は、置いておくと消えるとか?」

「まさか」

 だろうなあ。

「どういう形で使うんですか?それに、どうやって人に渡すんですか?」

 リトリイは少し怪訝な顔をして、ゆっくりと答えた。

「空間を操る宝玉は、手に持って使いますね。魔式解析と先読みの宝玉は、武器にはめたり、袋に入れて首から下げたりしていた絵が残っています。

 人に渡すのも、別に、普通に……」

 違うのかな?気のせいなのかな?

「お前ら。何か思い当たる事があるんだな?」

「え、何でです、支部長」

 支部長は、ただじっと、俺達の目を見た。見た。見た――。

「あああああ、もうだめだあ!」

 采真が頭を掻きむしって天井を見た。

「不可抗力だったんですよ!それもわかったの、つい最近なんです!」

 俺も同時に、頭を抱えて俯いた。

「やっぱりお前らかあ!」

「わああ!ごめんなさい!」

 俺と采真は、姫と騎士に別れ際にハグされた事、それから妙に調子がいい事、知らない筈の魔式が読めた事、相手の動きの予測が付いた事などを、洗いざらい喋った。

 全員、呆然とした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る