第35話 消えた宝玉とトルコライス
レントゲン、CT、MRI、血液検査。何をしても、異物を思わせるものはなかった。それでも、誰よりも俺達が、宝玉は俺達の中にあるのだと思う。
「どうしよう」
「解剖されても、出て来ないしな」
「死んだら出て来るとかだったら?」
「怖い事言うなよ、采真」
どう考えるべきか、どうするべきか。皆が、頭を抱えた。リトリイは、恨めしそうな顔をしている。
「いっそ、日本と同盟を組んで、魔人を殲滅するとかはどうだ?」
一応政府に知らせたら飛んで来た、科学技術省の役人が言った。
「そうとしても、宝玉がこの2人に溶け込んだらしいというのは、秘密にしていただけますね」
試しにと殺されてはたまらないから、そこは俺も頼みたい。
「あの、いいですか。
俺の両親を取り返しに、俺はいずれ向こうへ行くつもりでした。なので、同盟でもなんでも、向こうに行って魔人とやり合うなら、俺的にはどうでもいいですよ」
「あ、オレも。鳴海の相棒なんで」
支部長と役人は溜め息をついた。
「どっちにしろ、探索を進めないと向こうには行けん。無理なく、これまで通りに探索を進めるしかない。
その間に、政府にはその点を考えておいてもらいたい。
あと、リトリイはどうする」
全員がリトリイを見たが、リトリイは動じる事無く言った。
「ボクは、鳴海と采真と一緒にいます」
こうして、リトリイがうちで同居する事になった。
文化はお互いにそれほど違わないらしいし、大した混乱もなく、リトリイは生活に慣れた。
食事も、料理法なんて、生、焼く、煮る、蒸す、揚げる、凍らせるくらいなものだからか、好奇心旺盛に手を付け、食べられないものはほぼ無い。
そして、3人で探索をした。
リトリイは剣を武器にしており、魔術は少々といったところだった。リトリイの家系は、剣士の家系らしい。
しかし、采真とリトリイがいる事で、余裕ができた事は事実だ。
「この魔石を、こっちでは発電所で電気を作るのに使ったりしてるんだけど、リトリイの所ではどう使ってるんだ?」
拾い集めながら訊くと、リトリイは拾いながら答えた。
「魔道具を動かしたり、強い衝撃を与えたら爆発するから、爆破に使ったりだね」
「え。爆発するのか、これ?」
俺と采真は、魔石を入れたかばんを思わず凝視した。
「大丈夫だよ、転んだくらいじゃ爆発しないから」
リトリイは噴き出した。
「ダイナマイトみたいな使い方か」
言ったが、リトリイにはわからないらしい。
地球は科学と魔術が融合した形だが、向こうでは魔術が最初からあったため、科学は発展せず、魔術に偏っている。
例えば、魔人もリトリイも最初から普通に会話できるのが不思議だったが、これも魔術らしい。相手の言葉を自分の言葉に置き換える通訳の魔術があり、魔人も獣も人も、大抵は生まれてすぐにこれをかけるそうだ。
これが地球なら、学習するか、翻訳機を使う。
ただ、翻訳機だと、対象言語をインストールして使用することになる。
その点魔術だと、相手が何語だろうと、異世界人だろうと、働く事になる。
向こう側は科学が発展していないので、魔術が使える人はともかく、使えない人は、不便を強いられる事もありそうだ。
どちらがいいとは一概に言えないが、俺は、地球型が暮らしやすい。
「さあて、今日はそろそろ帰るか。限界時間が近付いてる」
采真はそれで時計を見て、
「うおっ、腹減ったと思ったらやっぱりそうか」
と言った。
采真の腹時計は、意外と正確だ。
「今日の夕飯は何ですか?おやつはありますか?」
涎を垂らしそうになりながらリトリイが言う。
リトリイは、こちらの食べ物が好きで、カツカレーと寿司類とパスタと駄菓子類がお気に入りだ。
「夕食はトルコライスで、おやつは1個な」
「トルコライス?初めてですね。トルコアイスというのは前に食べましたよね?」
俺と采真は、ムフフと笑った。
トルコライスとは長崎県の名物で、ピラフの上にトンカツとスパゲティを乗せた料理だ。ピラフがチャーハンだったりドライカレーだったり、カツにかけるのがカレーだったりドミグラスソースだったりするが。
「リトリイ、絶対に好きだな。な、鳴海」
「ああ。間違いない」
リトリイはそわそわとして、俺達を急かし始める。
「ああ、早く食べたいな!」
ふと、思う。こいつ、こっちに来た目的、覚えてるだろうな?
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