第60話 日伊、魔獣討伐仁義なき戦い勃発
カルロスが口を開いた。
「副支部長。マリオとリタが言い争いをしていたんですが、魔術で攻撃をしそうになって」
「そうなんですよ」
マリオが嘆息する。
「そこの日本人が俺の仲間にね」
全員が、「は?」という顔をした。
「いや、違うだろ。そこのヤコポってやつがやろうとしたから、鳴海が止めたんだろ」
副支部長はマリオをチラッと見てから、俺に向かって溜め息をついた。
「困るな。問題を起こすなら、即刻ここの許可証を取り上げる」
これに、見ていた全員がおかしいと騒ぎだした。まあ、流石にこれには無茶がある。
「わかった、わかった。
しかし、魔術を先に使おうとしたのがヤコポだとしても、それが攻撃魔術かどうかはわからん。それに、現に使われてはいない。反対に、そこの日本人が使ったのは、皆が見ていた事実だ。だから、両方引き分けだ」
「それは無いでしょう?」
カルロスがいい、皆もブウブウ言う。
これで決着させようと思っていたらしい副支部長は、これ以上は取り合おうとしない。
「大丈夫か、イタリア」
俺と采真は顔を見合わせた。
「でも、痛み分けか。まあいいだろう」
「鳴海?」
「クロの印象と、癒着の印象は残った」
日本語での小声でのやり取りに、気付いたものはいないようだ。
マリオが声を張り上げた。
「日本のトップでも、ガキなんだから、大目に見てやらねえとな。驚いたが」
俺も言い返す。
「イタリアのトップが言い訳の上手い事に俺は驚いたよ」
リタが笑い、マリオの顔が赤黒く変化する。
だが、何か思いついたらしい。ニヤリとした。
「このイタリアの迷宮の三大魔獣を先に討伐した方が勝ちだ。負けたら、大人しく日本に帰りな」
采真が不敵に笑う。
「あんたが負けたら引退か?」
「なわけないだろう!?マリオさんが負けるか!」
ヤコポが、失点回復とばかりに叫ぶ。
「何でも本当の事を言う、とかは?最後に洩らしたのはいつ、がいいかな。初めてのラブレターの相手、もいいかな」
言う俺に、マリオがニヤリとする。
「ガキだな。
いいだろう。ただし、ダチの事はダメだ。俺はナイーブなんでな」
「マルコは友人か?」
「ああ。大親友だったさ」
リタが顔を歪めて、
「嘘つき」
と吐き捨てた。
それで、副支部長が宣言した。
「わかった。では、虎の頭と牛の体を持つキメラ、セイレーン、将軍。この3つを先に討伐した方が勝ちとする。日本人2人組とマリオ・ルターのグループの勝負、明日から開始する!」
アパートで、俺達4人は集まっていた。
「汚いわ。マリオのグループって拡大したら、今でも20人はいるのよ。今から増やすかもしれないじゃない。
なのにこっちは、日本人2人組って」
「副支部長がマリオの言いなりだったなんて……」
リタは怒り、カルロスは落ち込んでいた。
「まあ、今更仕方がないよ。
それより、あの3つの魔獣について知りたいんだけど。協会の資料室、急に全部使用中で閲覧できなくなって」
俺が苦笑すると、リタが更に怒り狂う。
「どこまで卑怯なの!」
「あの、その3つに関して調べる事は出来るよ。職員用のパスワードでならできるから、コピーして印刷して来たよ」
「やったぜカルロス!」
采真が親指を立て、俺は即、その紙に手を伸ばした。
虎の頭に牛の体。やたらと固くて、動きが早い。こいつの厄介なのはそこだけではない。滅多に姿を現さないらしく、探すのがそもそも困難らしい。討伐証明部位は、首の虎模様と牛の白黒の毛が縞々になった皮。
セイレーン。86階の海にいるやつらしい。まだ誰も86階を制圧できていないけど、セイレーンの目撃が報告されているらしい。水中にいて、こちらを眠らせるとある。討伐証明部位はセイレーンの尾びれ。
将軍。20階のボスの内の1つ。20階のボス部屋には、たくさんの石像が出る。そしてそれを7割以下にしたら、ボスとして、将軍か魔女が出て来るのだ。どちらが出て来るかは運次第。
「ああ。この前出て来たのは魔女だったな。将軍ってのもいるのか」
「魔女は魔法特化だったな。じゃあ、将軍は物理特化?おし!俺に任せろ」
采真はやる気満々だ。
「セイレーンは、今やろうと考えているのが上手く行けば討伐できるな。
問題はキメラか」
俺達は唸った。
「向こうは人海戦術で探しまくるわよ」
「盗聴するとか」
「大胆だな、カルロス」
カルロスはヤケクソ気味に肩を竦めた。
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