第31話 小説ではお馴染みの、あれ

 俺達は、これまで以上に門の向こうへ入り浸り、がむしゃらに突き進もうとしていた。

 無理はしているつもりはない。宝玉のおかげで、俺の魔力は無尽蔵と言ってもいい上に、敵の魔式を読むのも早ければ、それをキャンセルする魔式を打つのも、普通に魔式を綴るのも早くなった。

 采真も、敵の数瞬先が見えるので、攻撃を避ける事も、予測して攻撃を放つ事もできる。

 魔人レイとの戦闘で、ああいうのがゴロゴロしている所を目指しているのだと思うと、魔獣程度で手こずっていてはいけないと、反省と考察を重ねるばかりだ。

「やっぱり、もう1人2人いるといいかな」

 采真の傷に回復の術式を撃ち込んでいると、采真が言う。

「まあなあ。息が合うやつで、適当な奴がいればなあ。もう少し違うだろうな」

 言ってから、散らばった魔石や羽や爪などを拾い集める。

 戦闘よりもこっちが面倒臭い。そして、邪魔になる前に一度戻らないといけない。動きを阻害すると危ないからだ。それがまた、何倍も面倒臭い。

 荷物持ち専門を雇う事も今の経済状況では難しくないが、最も危険なところで活動するという点と、魔人が俺達を狙って来るだろうという点で、その辺の人には頼めないし、安心して頼める実力者なら、そもそも荷物運びではなく探索に回っている事がほとんどだ。実力があるのに荷運びするのは、大手グループばかりだ。

 今から仲間を見つけて鍛える事も現実的ではない。

 なので、今のこの状態なのだ。

「マンガとか小説だと、収納袋なんていうのがあるのになあ」

「収納袋?何だ、それは?」

 俺はキョトンとして訊いたが、采真もキョトンとして俺を見返して来た。

「え?知らない?」

 そこで采真が、説明してくれた。擬態語や「みたいな」「そういう感じの」が多くて抽象的ではあったが、まあどういうものかは分かった。

「空間魔法ねえ」

「できる、鳴海?」

 どうだろう。ううむ。できたら物凄く便利だな、確かに。

「やってみる」

 空間圧縮と、相反する拡張とが必要で、持続させるためには常時魔力を必要とするだろうから消費を抑える工夫も必要で、それから時間を止めるだったか?それはどういう魔式だ?

 ブツブツといつの間にか言い出したらしい。

「鳴海、おい、鳴海ってば。鳴海ちゃん!」

「うるさい」

「ここで考えると危ないから、家で。な?」

「あ?ああ……そうだな。面白そうな考察だったんで、つい」

 そろそろ袋もいっぱいになって来たので、俺達はこの辺で一旦帰る事にした。


 その日から、俺の挑戦は始まった。

 伯父さんに聞いてみると、やはりこれまでにもチャレンジはされてきたらしい。

 だが、実用的な成功品はできないままだそうだ。

 昼間は探索、夜は研究と実験。

 隣の柏木にも

「目の下に隈ができてるけど、大丈夫か?」

と言われるが、自分的には、とても充実していると感じている。

「どうだ、鳴海?」

「うん。やってみるか?」

 俺は、紙袋を采真の前に差し出した。

「入れてみろ」

 采真は紙袋に、古雑誌を1冊、2冊と入れ始めた。10冊に達したところで、采真は喜色を浮かべた。

「凄え!まだ入るし、重くも無さそうだし、成功じゃねえか!」

「いや、残念ながらダメなんだよ、采真」

「何で?」

「魔力の供給を止めると――」

 止めた。

 すると、紙袋が破れて中身がドサドサと床の上に落ちた。

「魔力持ちしか使えない上に、注ぎ続けなければダメなんだよ。これじゃあ、実用的じゃない」

 嘆息し、考えだす。

「魔力か。魔力」

 俺は魔素を集める魔式を考えてみた。問題は、どの位集められるかだ。それも、門の内側と外側での差で、異常が発生する可能性もある。

 そうすると――。

 考えながら歩いていて、ふと目に留まった。我が家の開かずのキッチン。

「どうした鳴海?」

「ここ、どうなってるのか物凄く気になって来てな」

 並んでじっとドアを見る。

「迷宮の影響なら、破壊不可能だろ?」

「でも、鉱石の採掘はできるよな、迷宮内で」

 じっと見る。

「幽霊の謎は解けたけど、これはだめだもんな、相変わらず」

 父なら何と解釈するだろうか。俺はふと、そう考えた。





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