第30話 門の外での戦闘

 魔人のレイと俺達は睨み合った。

「おい、そこの」

 レイは俺を真っすぐに見ていた。

 そして、眉を顰める。

「ん?何かこの前と違うな」

「成長期だからかな」

 俺は軽く返しておいた。

「まあいい。

 素直に来なかったせいで遅刻して、怒られたじゃないか」

「知るか」

 答えた途端、レイが至近距離にいた。俺の首に手を伸ばしていた。

 反射的にそのまま引き金を引いたら、風だった。それはレイの髪の片側をカットして、背後に流れた。

「あぶねえな!」

「そっちこそな!」

 言いながら、中途半端に伸びた手に斬りつける。

 が、こっちは下がって逃げられた。

 なので追撃して行くと、迷宮化した壁に背が当たり、足が止まる。そこに霧を発生させると、その中から采真が剣を突き出し、レイの肩を薙いだ。

「うわっ!」

 魔術士相手なら霧の中でも魔力を探っていれば攻撃がわかるが、物理の攻撃は、やはり目視らしい。

「この!」

 采真へ攻撃しようとするレイに、横から俺が斬りかかり、それをどうにか防いだレイの頭上から、先に霧と同時に発して隠しておいた氷の攻撃が降り注ぐ。

「うっ!」

 俺は采真をひっつかんで離れた。

 霧と氷が、レイの天高く上がる火柱で消える。

 その後、霧の晴れたところに現れたのは、血塗れになったレイだった。傷を消してニタリと笑う。

「絶対に許さない。死体にして引きずって行ってやる」

 そう言って、氷の槍を生み出してこちらに注ぎ込んで来る。まるで集中豪雨の如き勢いだ。

「うわわわ!何だよこの勢いと量!どうするんだ、鳴海!?」

 盾の中に入っている采真の声も、すぐ近くだというのに、聞こえにくいくらいだ。

「しゃっくりと同じかな」

「え?」

「びっくりしたら止まるんじゃないかと」

「そうかあ?」

 俺達は言いながらも、油断なくレイの隙を窺っていた。

 そして盾を維持しながら、片手を下に向けて魔式を紡ぎ、発動させる。

 雷の魔術が蛇のようにレイに伸び、絡みつく。どうこうできるほどの威力はないが、一瞬痺れて、槍が止まる。 それと同時に、俺と采真は飛び出してレイに接近し、俺はレイの足を凍らせた。采真は次のレイの攻撃を読んでスッとかわし、レイに斬りつける。

 向きを変えようにも、レイは下半身を凍らせ続けられている。攻撃も抵抗も上手くできないでいた。

「あああああ!」

 癇癪を起したレイが周囲一帯へ炎を撒き散らそうとするのを、魔式を読んで俺はキャンセルし、驚いた顔のレイの右腕の傷口に魔銃剣の先を突き立て、爆発の魔術を3つ連発させた。

「ギャアアア!!」

 これにはたまらなかったらしい。腕が爆発し、続いて肩が、胸が脇腹が爆ぜ飛ぶ。

「おお、おま、え!」

 死にかけながらも俺に向かって魔式を綴ろうとするのを、胸の傷口に魔銃剣の先を当てて、

「黙れ」

と言いながら、雷を撃ち込んだ。

 プスプスという音を立て、焦げ臭い臭いのする黒い物質が倒れる。

 それを見、これ以上の復活が無い事を確認し、俺と采真は座り込んだ。

「死ぬかと思った……」

 采真が言って、大きく息をつく。

「何か、気持ち悪……」

 俺は、吐き気がしてきた。

 周囲の探索者達が恐る恐る動き出し、レイが完全に死んだらしいのを確認して、騒ぎだす。

「鳴海。おじさんとおばさん、取り戻しに行かないとな」

「ああ」

「その前に、腹、減った」

 采真と俺は、笑い出した。

 あの日はあんなに絶望的だと思っていたのに、今日は何とかなるかも知れないと思えた。


 探索者や協会職員達もホッとしていた。

 だが、世間ではそうと感じる者ばかりではない。

 門の外に魔人を出すなんて何事か。探索者が抑えるべきではないのか。

 もっと門の周囲を厳重にするべきだ。

 門をどうにかして閉じてしまえないのか。

 全てがでっちあげだ。魔人なんていない。

 そして、俺達の所には警察が来た。

「は?銃刀法違反?」

「門の外で許可なく武具を使用したので」

「いや、でも、そうしないと魔人が街中に出てましたよ?」

「法律ですので」

 俺達は逮捕されかけた。

 しかしこれには多くの反対意見、擁護する声があった。その上、その命令を出した警察上層部は、探索者嫌いで有名な野党議員に接待の席で頼まれた事がすっぱ抜かれ、どうにか助かったのだ。

「危なかったな、鳴海」

「不思議な国だよ、昔からこの国は」

 俺達は、テレビでそれを報道するのを見ながら、うどんを啜った。


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