第58話 イタリアの夜

 彼らを拘束したまま協会へと連行し、俺達はカルロスとリタに、「今晩ミーティング」とメールを打った。

 続いて協会職員に事情を説明し、調書を作って、彼らを警察へ引き渡す。

 それが済むともう夜で、俺達はアパートに戻った。そして、リタの部屋に、また4人で集まる。

「ケガがなくて何よりだよ」

 カルロスは、自分が何かされたかのように、青い顔をしていた。

「あいつら、『協会の上の方が黙認してる』とか言ってたけど」

 言うと、カルロスは首を横に振った。

「流石にそれはないよ。都市伝説レベルだね」

 それを是非信じたい。

「酔った時に友達が喋ったって、ダメかな」

「そうだな。弱いな」

 采真とリタはがっくりと肩を落とした。

 が、采真はすぐに立ち直った。

「じゃあ、作戦は続行ってわけだな」

「そういう事だ。方針に変更なし。引き続き、俺達は全力で先を目指せばいい」

「OK、鳴海!」

「リタ、そういう事だ。焦るなよ。確実に俺達は、真相に近付いている」

 リタは、悔しそうに唇を噛んだ。

「でも、あたしもマリオに1発入れたいのに。悔しいわ」

「リタ。私刑はダメだよ」

 カルロスが慌てて言うのに、リタは益々不機嫌そうになる。

「わかってるわよ」

 俺と采真は苦笑して、隣へ引き上げる事にした。


 日本の家に戻ってもいいが、何か呼び出しとかがあるかも知れないと思って、イタリアに泊まる事にした。

 部屋2部屋の内の1部屋はダイニングのようになっているので、もう1部屋で並んで寝転ぶ。

 さっさと寝るかと目を閉じた後、それに気付いた。

 

     う……うう……う……


 俺と采真は、パッチリと目を開けて顔を見合わせた。

「女の泣き声だな。不動産業者が言ってた」

「ああ。でもこれって、デジャブって言うのか?」

 音を立てないように、ソロリと起き上がり、その声に耳を澄ます。

 泣き声に、鼻をすすり上げる音。そして、溜め息。

「……これ……」

「リタだな」

 俺達は、よくよく、隣家の女性に泣かれる運命らしい。

 何となく溜め息をついた時、窓の外に、ポウッと灯りがついたように感じてギョッと目を向けた。

 何も無い。

 が、少しすると、ポウッと明るくなる。

 よくよく見ると、ベランダの下を這うようにして光の球がふわりと飛び、手すりから浮き上がって少ししたところで消えている。

「何だ?」

 俺達は窓際に寄った。

 また、光の球が飛んで来て、手すりの上まで浮き上がって、消えた。

「人魂?」

 采真が小さい声で言う。

「不動産業者が言ってたな」

 俺も小声で返し、それから言う。

「これ、光の魔術だぞ」

「……リタ?」

「そう考えるのが合理的だな」

 言って、そうっとベランダの窓を開け、隣を見た。

 このアパートは、2部屋ずつベランダがくっついている。ここは、リタの所とベランダがくっついており、仕切りの板があるものの、下は20センチほど開いている。

 気を付けて、ベランダに出る。

「リタ?」

 声をかけると、隣でリタの声がした。

「あら。鳴海?」

「俺もいるぜ!」

「フフ。どうしたの?月見?」

 俺と采真は目を見交わした。

「まあ。リタは?もしかして、魔術の訓練?」

「う。何で、まあ。

 光だと害が無いと思ったんだけど、眩しかった?」

「いや、眩しくはないよ。ないけど……」

 俺は、不動産業者に火の玉の目撃情報があるせいで、この部屋が瑕疵物件と言われている事を告げた。

「はあ!?し、知らなかったわ。でも、どうりで隣に人が来ないし、来てもすぐに出て行くと……」

 それを聞いて、俺達はゲラゲラ笑った。

 つられたのか、リタも笑い出した。

「いいんじゃねえの?貧乏なやつにお勧めじゃん」

 采真が言う。

「じゃあ、訓練は続けようっと」

「いい根性してるよ」

 それで俺は、少し光を安定させ、強くなるようにアドバイスをし、その成果が多少出たところで、お互いにお休みと引っ込んだ。

 采真は暗い部屋で、真剣な声で言った。

「もう、女の啜り泣きは、止めたい」

「ああ」

「必ず、マリオの罪を暴く」

「ああ」

「そんで、リタに告白する!」

「おう!がんばれよ」

 俺達は拳を付き合わせ、それで目を閉じた。

 采真がリタの夢を見たかどうかは知らない。

 でも俺は、巨大な松明を掲げて走る松明リレーの夢を見た。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る