第57話 カバとバカ

 翌日から、俺達は本気で、スピード優先で臨んだ。

 牛もサイも熊もいた。蜘蛛もカマキリのお化けも蛾もいた。それを、切り、焼き払い、氷漬けにし、吹き飛ばし、とにかくやりまくった。

 食材は、2周目で手に入れればいい。

 トリュフという、名前しか知らない高級なやつもあったけどな!

 しかしその甲斐あって、グングンと進んで行く。

「あとどのくらいだ?」

「確か、30階くらいだったな」

 言いながら、カバの首に風の魔術で斬りつけ、そこから采真が刀を入れて首を落とすと、カバは重量感のある地響きを立てて倒れた。

「カバって意外とやるんだな」

「皮も丈夫だし、なかなか強いしな。

 それより采真。6人だ」

「おお。やっと役に立つな、鳴海!」

 言われて、念の為にレコーダーを買って持ってはいるのだ。

 魔石を拾おうとかがんだ――と見せかけて、背後からの火の玉を盾で弾く。

 采真は忍び寄って来た槍使いの穂先を弾いて腹を蹴り飛ばした。

「何のマネだ」

 目つきの悪い6人組が、各々の得物を手にして俺達を囲んでいた。

 その、リーダーらしき男が、舌打ちして吐き捨てる。

「カンがいいやつめ。

 随分と景気がいいじゃねえか。先輩にここは譲ってもらおうかと思ってな」

 采真は、

「なあんだ。あはははは!ただのカツアゲだぜ、鳴海!」

と笑った。

 俺は嘆息した。

「はあ。面倒臭いな。放置したらまずいよな。時間の無駄だってのに」

 それで、彼らが怒りだした。

「ガキが、調子にのるなよ!」

「日本の迷宮を踏破しても、人を殺せるのか?魔獣と人は違うぜ、お坊ちゃん」

「戦争はしない国だもんな」

 采真は呆れたように言った。

「レコーダーに記録されてるんだぞ?」

 それに、俺は肩を竦めた。

「脅してそれを消す気だろ」

「ああ、気」

「そう、気」

 男達は、バカにされているとわかったらしい。

「殺して消してやるよ!お前らは魔獣の餌食になったんだ、ヘッ!」

 そう言って、かかって来た。

 それを、剣と魔銃剣で応酬する。全員を地に叩き伏せるのに、大して時間はかからなかった。

「はあ。アレとはケタ違いだな」

「魔王と比べるのは気の毒すぎるぜ、鳴海。せめて魔人の三将軍だろ。

 まあ、レイもロンドももっと強かったけどさあ」

 それに、彼らはギョッとしたように顔を上げた――失神していないやつらだけだったが。

「魔王?魔人?」

「え。知らなかったのか?」

 彼らは一瞬黙ってから、叫んだ。

「知ってたら襲うか!」

「それはまた卑怯な」

 采真が眉を寄せる。

 俺は、笑顔を向けた。

「なあ。殺しにかかってきたんだ。反撃されて殺される覚悟はあったんだよな?」

 彼らは青い顔で、ガタガタ震え出した。

 彼らを拘束し、俺と采真は彼らの前にしゃがみ込んだ。

「なあ。こっちではこんな事がまかり通ってるのか?」

 彼らは目をそらしながら、答えた。

「この程度は、まあ」

「ふうん。

 じゃあ、情報の無い魔獣の様子見に、誰かをけしかけたりとかは?」

 彼らは瞬きを止め、よそを向いた。

「知らねえな」

「ふうん。

 じゃあ、仕方ないな。俺達先を急ぐんで」

 俺と采真は立ち上がり、彼らはギョッとしたように俺達を見上げた。

「え?俺達は?」

 それに、采真が詰まらなさそうに答える。

「は?知らないね。まあ、魔獣が出ないことを祈るとか?」

「采真、向こうから今の奴と同程度の魔獣が近付いて来るぞ」

「ああ。あれはもういいな。行くか」

 歩き出しかけた俺達に、彼らが慌てる。

「待てよ!俺達は拘束されてるんだぞ!?」

「知ってるよ。やったの、俺達だし。

 だから?」

 言うと、そいつは俺を睨んで声を絞り出した。

「……悪魔か!」

「ああ、懐かしい。よく言われた」

「グウッ――!」

 魔力を感知するのが鈍い、或いはできない人でもわかるくらい、気配と振動が近付いて来た。

「わかった!マリオ・ルターのグループは、新人をそれ目的で入れるらしい!酔った時にダチが言ったのを聞いただけだから、本当かどうかは知らない!」

「お、おい!消されるぞ!?」

「今魔獣に殺されるよりは生き残る望みがある!」

「でも、協会の上の方も黙認してるって――!」

 内輪揉めし始めた彼らだったが、俺と采真は、ニンマリとした。

 そして、姿を現したカバに向かって行った。

「お前らは守ってやる」

「ご褒美だ!」

 風と剣で、2分で片付けた。



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