第56話 内股のガキ大将

 しばし、俺達は各々考え込んだ。

「マリオの、外での評判や、性格がわかるようなエピソードは?」

「あれでも一応は、イタリアのトップの1人だよ。人気は無い事もない。

 でも、同じ探索者からは、ワンマンとか、偉そうだとか、あまり評判はよくないな」

 カルロスが言うと、リタは吐き捨てるように言う。

「おまけに女好きで、見境も無いわ。飽きたら簡単に捨てるし」

「リタもしつこく絡まれてたな。何としても守るから!」

 采真が真剣に言うと、カルロスも、

「リタも気を付けて。腹が立っても、殴ったりしないようにね」

と言い、リタは嫌そうな顔をしていた。

「他には何か?」

 笑いを堪えて訊く。

「そうだなあ。マリオは昔から、ガキ大将だったな。俺の物は俺の物。お前の物も俺の物、みたいな」

「ジャイアンかよ」

 采真が呆れたように言った。

「あと、イタズラとかしても、逃げるのは上手かったよ。だれかのせいにするし、いじめとかも、ハッキリと命令しないでやらせて、自分は関係ないって言い張るんだ。

 その反対に、手柄は自分のものだったね」

「嫌なやつだな」

「でしょう」

「でも、意外と臆病だな。川を飛び越えるとか、幽霊が出そうな空き家に探検に行っても、先に子分を歩かせたりするんだから」

 カルロスが言って思い出し笑いをし、俺も采真もリタも、想像して笑った。

「ビビるジャイアン……ププッ」

「内股になって虚勢を張るとか?」

「プッ!ククク」

 全員がその姿を想像して、爆笑になった。

「今度顔を見た時、思い出して笑ったらどうしよう」

 俺が言うと、采真が、

「それはまずいだろ。そこは堪えて、堪え、プッ。内股で?」

と笑い、また皆で笑い転げた。

 さんざん笑い、リタは涙を拭いた。

「フフン。マリオ、恐るるに足らず!」

「おう!悪の内股ゴリラの罪を暴いてやろうぜ!」

「ププッ!」

 しまらない。

 俺は深呼吸して、言った。

「証拠がないなら、やっぱりあれしかないな。俺達がなるべく急いでマリオの所まで追いつくようにする。それで、マリオにそういう事をされれば、それを記録しておいて、証拠にできる。

 それがあれば、これまでの事も、チラッと聞いた事なんかを思い出すやつがいるかも知れない。何より、それで信用はガタ落ちだ」

「俺達は、ガンガン進めばいいって事だな、鳴海?」

 采真はやる気をみなぎらせた。

「カルロスは、不審な何かが無いか、資料を当たってみてくれ。俺達が探っているとバレれば警戒されるし、こうして会っているのを知られるのも避けたいな」

 采真がガタッと立ち上がった。

「お、お隣さんだから!」

「ん、まあ、その程度ならな。外ではあいさつ程度にしとけ」

 采真はシュンとしたが、

「終わったら、バーベキューでもしましょうか」

とリタが提案したので、分かり易く顔を輝かせた。

「その時は、ウサギとロブスターも捕って来るぜ!」

「鹿とかイノシシとか牛とかもいいな。うん。刈って来よう」

 言うと、カルロスが苦笑した。

「探索者は凄いね」

 無事にバーベキューができる事を、祈るばかりだ。





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