第55話 報告会

 俺は采真とリタに言った。

「俺達はとにかく探索を急いで、マリオに追いつこう。

 もしかしたら、俺達がボス部屋に蹴り込まれるかもしれないしな」

 それに、リタは慌て、采真はニヤニヤとした。

「そ、そんなの危ないじゃない!私が何とか!」

 それは、不可能っぽい気がする。

「まあまあ。俺と鳴海だぜ?途中階のボス如き、瞬殺してやるぜ。な!」

「瞬殺かどうかはともかく、不可能とは思えない。そっちの心配は無用だ。

 役割分担をしよう。リタは、協会の人や他の探索者に、そういう噂でもないか調べられるか。今回に限らず、マリオが似たような事をした事があれば、状況証拠程度にはなり得る」

 リタはやや自信なさそうにしながらも、頷いた。

「わかった。兄の友人とかにも会ってみる」

「俺と采真は、とにかくマリオに追いつこう」

「腕が鳴るぜ、鳴海!」

「ああ。何なら落ち着いてからまた来ればいいしな。食料は最低限にしよう」

「え。食料?」

 リタがちょっと怪訝そうな顔付きをしながら、俺達の顔を交互に眺めた。


 リタは上の階のエレベーターで上へ戻し、俺達は先に向かった。

 26階の浅瀬の海は、浅瀬と言ってもやはり、攻撃力が減衰したり、行動が阻害されたりした。

「浅瀬でもこんなもんか。停滞してる階は海だと言ってたな。もっと深いところだろうな。となれば、もっと厄介だぞ」

 ロブスターと魔石や討伐部位をバッグに放り込みながら、俺は考えていた。

「呼吸はボンベを背負えばいいけど、動きがなあ。水の抵抗で、素早く動くのは難しいだろ。なのに絶対に相手は水棲動物だから、素早く動ける」

「ズルイなあ。何とかならないのかな」

「こればっかりはなあ。それで、停滞してるんだと思う」

 考えたが、今すぐに考えつくような事は、とうに誰かがしているに違いない。

「まあ、今すぐってわけじゃない。とにかく今は、先に進むぞ」

「おう!」

 俺達は拾い残しが無いか見回して、次に進んだ。


 カウンターで討伐部位と魔石をじゃらじゃらと出して買取を頼み、急いでアパートに引き上げると、シャワーを浴びて着替える。

 そして、おすそ分けのウサギの肉とロブスターを持って、隣へ行った。

 リタと、仕事を終えた協会職員のカルロスが待っており、肉とロブスターを見ると、早速夕食にして食べる事にした。ウサギのソテーとロブスターのグラタンを、カルロスが作ってくれた。

 それを食べてから、リタが口火を切った。

「カルロスも、協力してくれるって」

「それは心強いな。協会職員なら、色んな噂や報告も耳に入るだろうからな」

「そうだな!よろしく、カルロス!」

 それで、報告会が始まった。


 マリオとマルコが探索者になったのは、高校生の時だったらしい。

 マリオ、マルコ、カルロスは確かに同い年の幼馴染だったが、小学校時代はともかく、それ以降は仲良しというわけでもなかったようだ。

 というのも、カルロスは本が好きな大人しいタイプ、マリオはいわゆるガキ大将というやつで、マルコは優等生。カルロスとマルコはまだ仲が良かったが、マリオは、噂を聞くくらいだった。

 だが探索者になってみると、マルコもマリオも優秀で、見る見る頭角を現し、トップの仲間入りを果たしていった。

 そして、ボスだ。誰も挑んでいない階のボスで、何の情報もない。

 そこで、マリオのグループとマルコは、共に引っかかった。

 そんなある日、マルコが時間切れで強制的に戻されて来た――ただし遺体で。

 マリオは、

「止めたのに、功を焦って1人で飛び込んで行った」

と証言。

 そしてその翌日、マリオ達はそいつの討伐に成功した。


 カルロスはそこで一口コーヒーを飲んで、続けた。

「それだけなら、まだ納得できない事もなかったんです。まあ、マルコらしくないという点を除けば。

 マリオの挑む難敵は、よく、寸前に誰かが死ぬんです。同じチームの新入りが。でも、新入りだったから連携が完全じゃなかったとか、貢献しようとして無理をしたらしいとか、尤もらしい事は言ってますけどね」

「証拠さえあれば!」

 リタがテーブルを叩く。

「そう言えば、レコーダーは?」

 俺が訊くと、カルロスが弱々しく答えた。

「この件があってから、勧めるようになったんだ」

 俺も采真も、思わず嘆息した。

 万事休す、か。



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