第54話 隣室の美女の事情
階段の終わりで、俺は采真とリタに追いついた。
「ストップ。リタ、まずは止まれ」
疲れていたのだろう。意外と素直にリタは止まった。その全身をザッと見て、ケガが無いらしい事を確認しておく。
「ちょっと休憩して行こうぜ。
あ。日本のお菓子もあるんだ。リタも食おうぜ!」
采真がニコニコとして言いながら、リタを階段に座らせ、ボディバッグから水筒と巾着袋を出す。
「ドーナッツとシュークリームがあるぜ!」
リタはちょっと変な顔をした。
「それ、生ものでしょ?」
俺は采真の代わりに誤魔化した。
「冷凍だ。自然解凍でいけるやつ」
「ああ」
リタはすんなりと騙された。
包装してあるゴミは回収しないとな。製造年月日が昨日じゃ、辻褄が合わない。
階段は一種の安全地帯で、休憩所となっている。なので、ほかにもここで休憩している探索者はおり、めいめいが軽食をつまんだりしている。
お菓子とコーヒーで一息つきながら、話をする。
「お兄さんが亡くなったとか?」
リタは甘い物でリフレッシュできたのか、あっさりと頷いた。
「ええ。トップのうちの1人で、慎重で優しくて勇敢。自慢の兄だったわ。
幼馴染のマリオとマリオの仲間との4人で、ボス部屋に到達した。そこは当時の最深部で、ボスに関する情報は全くなかった。
マリオが言うには、兄が止めるのも聞かずに1人で挑んでやられて死んだという事だったけど、あり得ない。兄は慎重な上にも慎重な人。もし挑むにしても、万全のグループで挑むはず。
その後すぐにマリオがそのボスを倒したわ。
おかしいのはその後もよ。いつも最初に誰か死んでから、マリオが討伐するの」
俺と采真は、頷いた。
「それはまた、怪しいな」
「まるで、誰かに先にやらせて、予習しているみたいだ」
「そうなのよ。そう思うでしょ」
リタは勢い込んで言った。
「でも、それをマリオは認めないわ。だから、そういう行為を証言してくれそうな人がいないか、探しているの。もしくは、誰かをボス部屋に押し込もうとしている現場を見るとか。
その為に、魔術士としてはほとんど役に立たないレベルで、槍の腕も大したことが無いけど、あたしも探索者になって、マリオと同じくらいのところに行きたいの。行かなきゃダメなの」
采真はリタに向き直った。
「わかる!リタ苦労してるんだなあ。うん。俺も力になりたい。
なあ、鳴海」
俺はひとつ頷いた。
「ああ。心証としては真っ黒だな。
とはいえ、このやり方では、難しいな。そんな事をするんだから、当然周囲に自分達以外にいないことは確認してるだろうし、トップなら最深部にいるって事だから、元々人が少ないだろうからな。証言者は無理だろう。
後、言いたくないが、そういう場面を目撃するとなれば、トップに立たなければならない。リタの腕では、正直無理そうだ。
それと、目撃するという事は、新たな犠牲者を黙認するという事にもなる」
そう言うと、リタは何か言いかけ、結局黙った。
「鳴海」
「避けて通れないのは事実だぞ」
リタはボソッと下を向いて言った。
「わかってる。全部わかってるわよ。それでも、マリオが兄をはめたのなら許せないし、あたしはどんな罰だって受けるわよ」
それに俺は嘆息した。それで誰か死んだら、どういう責任の取り方をする気だろう?
「わかった。俺達も協力するから、勝手に動くな」
リタと采真が、パアッと明るい顔をした。
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