第20話 支部長室
俺と采真は、無茶をするなと言っただろうと支部長と親父さんから説教され、その後で、改めて聴取を受けた。
今回の事については、先に聴取した他の探索者の話と一致しているとして、一通りで終わった。
そして改めて、厄災の劫火について訊かれる。
それについても、何度も言っている通りに、真実をそのまま言うだけだ。
「ううむ」
支部長と、探索者代表の親父さんは唸って考え込んだ。
「魔人の存在について、世間は今も2つに割れている。正式な見解の発表を協会も迫られているが、魔人の存在は認める事になるだろうな」
支部長が言うと、親父さんも頷く。
「ああ。魔人は脅威だ。何か知らないが、探し物とやらの為に地上にまで出て来ても不思議ではないし、地上で暴れまわる事も十分あり得るからな」
「探し物ってのは何だろう。それに変わるものを、霜村氏が研究させられているような口ぶりだったそうだな。
霜村氏が当時研究していたのは?」
俺は答えた。
「人工魔素の研究です。
クリーンな電力として、魔術が使えるのではないかと父は考えていました。ライトとかポットとかそういう家電製品に人口の魔素を動力として組み込む事で、魔素を取り込んで溜められない人も、魔素を自由に出せない人も、全員が使えるようにできないか、と。
それで、まずは魔式を組み込んだ家電製品に俺が魔素を流し込んで動くかどうか確かめたり、俺が電池みたいなものに魔素を充電させられるかという実験をしたり、人工的に魔素を何かから抽出するか作り出せないかとしていました」
それで、4人でううむと考える。
「それ、魔人が欲しがる技術なのか?」
采真が言い、
「まあ、向こうが凄く、何て言うか、文明の利器的なものが無いくらいの生活水準だったら、欲しがるだろうけどさあ」
と続ける。
「あいつらの服装とか見ても、そんな気はしないな。大体、持ってる魔力量だって向こうは見るからに多いから、電池みたいな技術も要らないんじゃないか?」
「だろ?」
俺と采真の感想に、支部長と親父さんも考え込む。
「まあ、物凄く魔素が必要な事情があるって可能性もあるがなあ。
探し物ねえ」
考えてもわからず、取り敢えずは
「突っ込むな、1人で魔人にケンカを売るな、先走るな」
と言い聞かされ、放免された。
そして俺と采真は、壊れた武器を修理してもらうために、伯父の海棠アームズへ行った。
ドアを開けると、奥からサッと伯父が顔を出す。そして、小さく溜め息をついた。
「修理の範疇を超えているな」
魔銃剣を一瞥して言う。
「す、みません」
「壊れた時の状況を話してみろ」
訊かれたので、俺はその時の状況を事細かに説明した。
伯父はそれを聞いて少し考えていたが、奥に引っ込むと、計測器を持って現れた。溜められる魔素の量を計測する機械で、俺も父の実験に協力している時はしょっちゅう測っていたが、魔銃剣制作の時以来測っていない。
箱に短い縄跳びのひもを通したような形状で、持ち手部分を左右の手で握って魔素を軽く放出すると、その勢いやもう片方の手に帰って来るのにかかる時間や量などから、魔素をためこめる、いわゆるタンクの大きさがわかるのだ。
「この1年強で、かなり増えているな。なるほど。手動で籠めた魔素が多くて、受け止められなかったんだな」
「はい。そんな感じはしました。てっきり、魔素量のコントロールを失敗したのかと思っていましたが」
「わかった。改良しよう。
そっちはどうだ」
伯父はいつも通りに淡々と受け答えをし、俺は少しほっとした。雑に扱ったとか思われて、叱られるかと思っていたからだ。
「魔人の剣を受けたら、刃が歪んだみたいで」
采真が剣を出して説明し、俺達は武器を預けて店を出た。
「これからどうするか」
言うと、采真は即言った。
「まず飯だぜ!それから、帰って寝る!」
「うん。武器がしばらくないからな。まあ、貧血も酷いし、しばらくは筋トレとか家の用事とかをしてるか」
言うと、采真は
「しゃねえなあ。
あ、映画見ようぜ!レンタルで借りて来て!」
と言い、俺の腕を掴んで走り出そうとする。
「わかった、わかったから。
何が見たい?」
「ホラーアクション!人気ゲームの実写版のやつ!」
「SFサスペンス」
「じゃんけんだな」
俺は忙しく考えた。采真の最初にパーを出す確率は80パーセントだ。ここはチョキだな――いや待てよ。そう見せかけてグーで来るかも知れない。しかし采真だしな。
俺はグルグルと考えだした。考えがまとまらない。酷い貧血って頭に血が行きにくいせいか、集中力が出ない。
そうこう考えているうちに、
「じゃーんけーんで、ほーい」
と采真の音頭で手を出してしまった。
采真はカンと反射で行動するタイプで、俺は考えて考えて行動するタイプだ。そして采真のカン相手には、俺の予測が往々にして通じない。
「やったー!ホラーアクションな!」
また、負けた……。
俺達は、スーパーとレンタルショップをまわって、家に帰ったのだった。
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