第78話 研究バカの願い

 エマの家から車で10分くらいで、そこに着いた。中流階級向けの一戸建て、という感じの家で、庭にはガレージもある。

 そこに車を止め、5つの鍵を開けて、中に入る。

 ダイニングキッチンは、半分実験室となっていた。その向こうのリビングは片付いていたが、3つある部屋は、研究室と資料室と工作室らしい。

「そこのリビングにごろ寝になるけど」

「はい。ありがとうございます」

 荷物を置き、その辺の物をちょっと見た。

「義足に疑似神経を通すんですか?」

「わかった!?魔素を神経線維内を流れる電気信号の代わりにして、それをヒトと接続すれば、元の足のように動かせるんじゃないかと思うんだよ」

「成程。

 接続はどういう風に?」

「うん。魔術士の杖の魔術発動の仕組みを流用できないかな?」

「できなくはないかもしれないけど、それだと魔術士しか使用できないかも。

 しかも、動かすのにずっと魔素を使う事になる」

「そうなんだよねえ。

 それと、使用者との接続もね。どうやってつなぐか。脱着不可能でいいのか」

「破損や成長で取り換えないといけなくなった時、大手術になりますね、直接つなぐと」

「だろ?しかも、下手したら、取り換えの度に足を削る事にもなりかねない」

 俺とルイスは考え込んだ。

 そんな俺達を、采真は面白そうに見ていた。

「お前ら、気が合いそうだなあ。というより、ルイスと鳴海の親父さんが気が合いそうだな」

「ああ、確かに。

 ついでに言うと、伯父さんもだな」

 それに、ルイスは小首を傾げた。

「鳴海のお父さんは霜村博士だよね。伯父さんも研究者を?」

「いえ。武具職人です。海棠アームズっていう」

「一流じゃないか!個人経営だから小さくて作品も少ないけど!」

「ありがとうございます。そう言っていただけると伯父も喜びます」

 それに采真が、

「仏頂面だけどな」

と言い、思わず俺と采真は吹き出した。

「ああ。博士にも意見を頂けたらな。というか、できるのであれば弟子入りしたい。

 ボクは家を出てもいいとしても、彼女はどうか……」

 本気で検討し始めた。

「彼女って、エマ?」

 采真がニヤニヤとする。

「そ、そうだよ。

 エマは元は探索者で、魔術士だった。でも、杖が暴発して、下半身が麻痺する大けがを負ってしまったんだ」

 苦しそうな表情で、声を絞り出す。

 俺も采真も、

「好きなんだろ、ひゅーひゅー」

とは言えない雰囲気になった。

「ボクはどうしても、何としても、彼女を歩けるようにしたい。自己満足でも」

 何かあるのだと丸わかりだ。

 でも、深く訊いてはいけない気もする。

「まあ、ご飯にしようか。冷凍とレトルトだけどね」

 ルイスが言ってその話はそれっきりになったが、ルイスが入浴中に、采真がポツンと言った。

「俺、ルイスとエマを応援するぜ!」

「ん?義足の事か?」

「そっちは俺にわからねえよ。

 でも、2人がくっつくのを応援する」

「ルイスはエマが好きかもと思ったけど、エマはわからないぞ?」

「どう見ても好きだろ」

「え。そうだったか?」

「そうだよ。何でわからないの?」

「いや、わからなかったなあ。え、どこで?どこらへんが?」

「ちょっとした声とか、視線とかさあ」

「そうか?ええ?」

「鳴海ちゃん、頭いいのにそっちはダメだよなあ」

「鳴海ちゃん言うな」



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