第12話 幽霊の正体

 それから、竜を目撃して様子を見に来た警察に説明し、警察を通して協会にも説明し、ようやく騒動にけりがついた。

 虚偽の依頼に迷惑をこうむったが、違約金と竜の魔石や素材で、預金通帳的にはありがたかった。その上、小型だったとはいえ竜を2人で倒したので、「ドラゴンキラー」として名前が広まって、ランクも上がった。Aだ。

「協会からもこってり絞られた以外に、警察にも逮捕されたらしいな、村の皆」

 采真が聞き込んできたらしく、そう言った。

 結局お土産どころの話ではなく、理伊沙さんに芋けんぴも火山灰せっけんも買って来られなかった。

「ああ。キラー鳥の卵を盗んで密輸して、竜を呼ぶという危険な儀式を行い、しかもそれに当事者でない人間を当てたんだからな。

 他の聖竜教信者にも、監視の目が付くらしいぞ」

「そうでないと困るよなあ。

 さて。そろそろ寝るか」

 俺は歯を磨きに行こうと洗面所へ行った。

 そして、ギョッとする。


     う、ううう……グスッ


 初めて聞いた。これが「すすり泣く女」か。

 俺は唇の前で人差し指を立てながら店舗部分に戻り、采真を手招きした。

「ん?」

 采真は怪訝な表情を浮かべながらも付いて来て、その声を聞いて目を丸くした。

 俺達は顔を見合わせて頷き合い、そこらを見た。勿論だが誰もいない。

 次に俺は魔銃剣を持って来て、アンデッドなどを浄化する聖魔術を撃ってみた。


    グスッ ヒック ウウウ


 効いていない。というか、ここに何かいる気配がない。

 俺達は廊下に出て、小声で話し合った。

「見えないやつか?」

「迷宮のやつじゃない、昔からいる幽霊って事か?あれ?この2つは違うのか?迷宮は見えるのに、何で昔からいる幽霊は見えないんだ、鳴海?」

「魔素、かな」

 俺はすすり泣く女の声がここで今聞こえているという事よりも、そっちが気になって来た。

 と、


    グスッ グスッ

    キュルキュルキュル


という音がした。

 俺達は顔を見合わせた。

「今のキュルキュルって……」

「車椅子か?」

 隣の柏木家で、理伊沙さんが泣いていたって事か?それがこの家に伝わって来て、「女のすすり泣き」という幽霊話になったのだろうか。

 拍子抜けすると同時に、その原因に心当たりがあって、俺は気が重くなった。

 今日、近所でマラソン大会があったのは知っている。きっと、ケガさえなければ、理伊沙さんだって……。

 柏木家のある方の壁を見る俺に、采真が言う。

「お前のせいじゃねえよ。

 はあ、寝ようぜ。明日は卒業式だぜ」

「ああ、そうだな」

 俺はこの事を頭から追い出して、寝る事にした。


 が、眠りが浅かったのか、明け方に目が醒めた。

 もう寝られる気がしなくて、起き上がり、下に降りた。そして、洗面所へ行き、動きが止まった。


     フッ ウッ ウウッ


 俺は外に出た。

 そして、そのまま表に出て、柏木家を覗く。

「あ……」

「フッ、ウッ、フウウ」

 柏木が、庭で筋トレをしていた。

 俺はそっと見つからないように家へ戻り、ドアを閉め、天井を見上げると、笑いがこみ上げて来た。

「プッ、ククク、苦しむ男のうめき声って」

 爆笑したくなるのを堪えていると、采真が起きて来た。

 そして、洗面所へ行ったかと思えば、飛び出して来る。

「采真、そうっと、柏木家の庭を覗いてみろ」

 采真は変な顔をしながら外へ出て行き、それとは違う変な顔をしながら戻って来ると、ドアを閉め、笑い出した。

「幽霊の正体?うめき声をあげる男?」

「筋トレって、確かに苦しいけどな!」

「これにビビってたのか、今までの借主は?」

「わはははは!」

 朝から大笑いだった。




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