第69話 ルーキー

 ソユンは、運動神経はそう悪くなかった。采真が軽く打ち合って、

「高校の部活の控え選手くらいかな」

と言った。

 まあ、チャレンジくらいはしても大丈夫らしい。

 次に、動きや合図を教え、俺達もその新しいフォーメーションに慣れるように感覚を慣らす。

「あと、ゲート内では、必ず俺達の指示に従う事」

「もし鳴海と采真の指示が違ってたらどうするのかしら」

「その時は鳴海で。というか、大抵指示は鳴海が出すからな!」

「じゃあ行くか」

 俺達は、迷宮に足を踏み入れた。


 まずはルーキー向けの階で徘徊して慣れて行く。

 ウサギと睨み合い、心配したが、「かわいい!」という第一声とは裏腹に、笑いながら首を刎ねた。

「ソユンが怖い……」

 采真の顔色が悪い。

 食料は諦めようと采真と相談していたので、小さい魔石だけを取って後は消えるに任せた。

「やったわ!」

 魔石1つ1000円。ウォンだと1万ウォン。100万ウォン稼げと言われたという事は、魔石にすれば100個。

 そう長くもかからないな。

 そう思っていると、ソユンと采真はニコニコとしてハイタッチをしていた。

「ほら、鳴海!」

「鳴海!」

 まあ、辺りに気配はないし、記念すべき1個目だし、仕方ないか。

 俺もハイタッチしておいた。

 それからも調子よくルーキー向けの魔獣を問題なく狩り、今日の探索は終了した。

「まだ行けるわよ」

「そういう時が危ないし、今はわからないだけで、筋肉痛になってるかもしれない」

「え」

「焦らない、焦らない!」

 采真が上手くソユンに納得させて、それで俺達は引き上げる事にした。

 ソユンが興奮も冷めやらぬ様子で意気揚々と歩く。

 それを見たベテランが、微笑まし気な表情を向けた。

「新人か。懐かしいな」

「見ろよ。アンの上級者モデルだぜ」

「ウヒョー。どこのお嬢様だよ」

「でも、アンって、大丈夫か?」

「ヤバイんじゃないかって評判だもんな」

 そんな会話が、耳に残った。


 アパートに戻ると、執事とメイドがキッチリと頭を下げる。

「お帰りなさいませ」

 慣れそうにない。

 しかしソユンにとっては、それは当たり前の事だ。

「楽しかったわ!ひょっとして私天才じゃないかしら。どう思う?鳴海、采真」

 振り返るソユンに、俺と采真は答えた。

「調子に乗ったヤツから死ぬもんだよな、ルーキーは」

「ははは!まあ、これからだぜ、色々あるのはさ!」

 それに、ソユンはムッと顔をしかめた。

「鳴海って厳しいわ。采真の方が優しい」

「はいはい。

 早いうちに手入れをしておくようにな。それと、ストレッチをして、筋肉をほぐしておく事な」

「褒めてよ!」

「はいはい。今日は大変よくできました」

「キー!」

 ソユンはあかんべーをして、自室へとメイドを従えて大股で歩いて行った。

 それを、俺と采真、執事は、苦笑を浮かべて見送る。

「お疲れ様でございました」

 改めて執事が頭を下げた。

 俺は声を潜めて、訊いた。

「アンの評判なんですが、何かありましたか?」

 それに、執事の表情が微かに曇る。

「はい。立て続けに4人の探索者の方が、アンの防具を使用中、不具合が原因で危うく死にかけたと。

 言うまでもなく、防具は最後の命綱でございます。そこから一気にアンの防具が売れなくなりまして、そこに根も葉もない噂が付く事で現在の経営不振に陥り、グループの連鎖倒産も間近かと言われております」

 俺と采真は短く嘆息した。

「防具の不具合か。それは、痛いな」

「不安のある防具を使うやつはいないからな」

 ちら、とソユンの顔を思い浮かべた。

「でも、変だな。日本でもイタリアでも、そんな話は聞かなかったし、アンブランドを使う奴はたくさんいたよなあ、采真」

「いたいた」

「どういう不具合だったんだろう。調べられますか。できれば、現物を見てみたいのですが」

「かしこまりました。手配いたします」

 執事は、完璧な礼をして見せた。



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