第9話 キラー鳥

 キラー鳥。トンビが魔獣化したものだ。ワニをバリバリと食う大きな鳥で、ヒトを積極的に襲うとは聞いていない。卵を大切にし、キラー鳥の卵やヒナが大好きな竜が来ると、狂ったように反撃する。

 キラー鳥にしても、元がワニの竜にしても、全てに言える事だが、魔獣化した時点で、生態も運動能力も別物になる。

 キラー鳥は、びっしりと歯の生えたくちばしを開けて、船に向かって威嚇した。

「キエエエエ!」

 運び屋は、青い顔でキラー鳥を見ていた。

「船内に入っていてください!」

 言って、キラー鳥に向けて火の魔術を放つ。

 キラー鳥はそれを翼の先に受け、体制を崩した。

「す、すまん!」

 言って、慌てて中に入る。

「鳴海!残念だけど、剣が届かないぜ!」

「追っ払えばそれでいい!」

 言いながら、再度向かって来るキラー鳥に火の魔術を撃つ。それを躱されるが、予想通りだ。撃っておいた先にキラー鳥が避けた事で、攻撃が当たる。

「ギャアアア!!」

 キラー鳥は怒ったような声を上げて高度を取る。

 そして再度攻撃を仕掛けようと高度を落として来たが、俺の張った盾にぶつかり、あえなく失敗。諦めたのか、取り敢えず船から離れて行った。

「行ったか?」

「何だったんだあ?船がエサに見えたとか?」

「見えないだろ?」

 首をひねったもののわからない。

 そのうちに船は島に着き、俺達は船長に感謝されながら船を降りた。

 港と言っても、コンクリートの船着き場があって、小さい建物があって、それだけだ。そしてそこに、島民が2人、迎えに来ていた。

 片方は30歳前後の女、もう片方は40台半ばの男だった。

「栗林霧江さんですか」

 運び屋の男が、女に近付く。

「はい」

「連絡しました、永井です。失礼ですが」

 女は免許証を見せた。それで運び屋は納得し、続けた。

「栗林桐吾様からの依頼で参りました。箱と、こちらが栗林様の遺骨です。栗林様は大けがをして病院へ担ぎ込まれ、この箱を届けるように依頼して欲しいと看護師に遺言し、亡くなったそうです」

 栗林さんは20センチ四方の立方体と白木の箱を受け取り、

「兄さん」

と一言呟いて鼻をすすり上げると、運び屋の差し出す伝票にサインした。

 一緒にいた男の方が鼻をひとつ啜り上げ、俺達の方へ来た。

「探索者の方ですか」

「はい。霜村と申します」

「音無です」

「遠い所ありがとうございます。井川です。村へ案内しますんで」

 そうして、運び屋はそのまま船に乗り、俺達4人は車で村へ向かった。


 島は一つの山になっており、その中腹に、島唯一の村があった。

 その中心なのか、広場になっている所に村長達がおり、物珍しそうに子供が見ているほか、年配者達がいた。

「遠い所、ありがとうございました」

 90歳近いのではないかというくらいの村長がそう言う。

「早速ですが、魔獣の詳しい話をお伺いしたいのですが」

 そう切り出すと、村長は笑い、

「今日の所はもうお休みください。詳しくは明日に」

と言うと、聞こえないふりをして踵を返して行ってしまう。

 そして俺達は、促されて集会所みたいな所に連れて行かれた。

 夕食は、ご飯、切り干し大根、さつま芋と人参とレンコンの天ぷら、明日葉のお浸し、梅干し。

「何と言うか、体に良さそうだな」

 采真が言う。

「ここの人は、ベジタリアンなのかもしれないな」

 味は薄いような何か足りないような微妙な感じだ。

 俺達は盛り上がりに欠けたまま食事を食べ終え、暇なので外を見た。

「あ。さっきの栗林さんの家、あそこだぜ」

 采真が言い、俺も外を見た。

 斜め向かいの家に島民達がバラバラと入って行く。

「ああ。お兄さんの通夜かな」

 見ていると、中から村長が出て来た。なぜか、例の箱を大事そうに抱えている。

「村長宛ての荷物だったのかな?」

 俺は言いながら、何か見落としているような、落ち着かない気分になって来た。

「暇だなあ。テレビも無いぜ」

「あ?ああ」

 俺は言い知れぬ不安に、もっと夜が更けてから、村の中を調べてみる事にした。

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