第22話 おとぎ話のお姫様
翌日も、柏木兄弟にお世話になっている。柏木は壁面ラック込みのテレビ台の組み立てを俺と采真と一緒にしてくれ、理伊沙さんは昼ご飯にホットケーキを焼いてくれた。
采真が、早く他のプレートも使いたいという事からかホットケーキが食べたいと言い出したからだ。
そして、魔人の話の続きになった。
「探し物、か」
考え込む。
「それにしても、迷宮の向こうには別の世界があるっていうのは本当なのね」
理伊沙さんが言った。
「ああ。都市伝説の類かと思ってた人も多いだろうな」
柏木が言うが、その通りだ。
とある村限定で伝わっていた昔話で、トンネルの向こうから逃げて来たお姫様の話というのがある。
獣と人間と鬼の国があり、長い間均衡を保っていたらしい。しかし、鬼が獣を手下にして人間の国に攻め込んで滅ぼしてしまい、どうにか国の宝物である3つの宝玉の内の2つを持って、姫と騎士数人が脱出したそうだ。そして、長いトンネルを抜けて別の国に逃げ込み、数を減らしながらその村に辿り着いて、そこで、姫と騎士が2つの宝玉を守っている。そういう話だ。
迷宮が現れた時、ネットでこの話を引っ張り出して来た人がいたが、そうだとも違うとも証明する事ができず、いつしかこの話も埋もれて行ったのだ。
「もしこの話が事実だとしたら、獣は魔獣、鬼は魔人か。だとしたら、探し物は姫の持ち出した2つの宝玉か?」
言うと、理伊沙さんは首を傾けた。
「鬼が魔人?まあ、強いから?」
「古来オニと言うのは、化け物を指す事もあれば、外部の見慣れない者――例えば外国人を指す事もあったんですよ。魔術というよくわからない力を持つ魔人は、話を聞くと鬼と呼ばれるのもあり得るでしょう」
「その宝玉って、何だろうなあ。何個か集めたら願いが叶うとか」
采真が言うのに、全員が「ないない」と首を振った。
「今日の調査で、何かわかるといいけど。まあ、望みは薄いかな」
柏木が言ったが、それには皆も、期待しながらも同感だった。
武器が仕上がり、慣らしも兼ねて、俺と采真はその依頼を受ける事にした。たこ焼きパーティーで話題に上がった村の近くで霊体の目撃例が相次いでおり、それをどうにかして欲しいというものだ。
昔なら拝み屋や住職などが引き受けていただろう仕事だが、迷宮で「レイス」やら「スケルトン」やら「ゾンビ」が出現する現在、これは探索者の領分となっていた。
「なあ、采真。いわゆる幽霊とレイスは一緒だと思うか?」
俺はふと、疑問に思ったので訊いてみた。
「一緒だろ?」
采真がキョトンとする。
「まあ、そういう扱いだよなあ。
でも、幽霊は見える人も見えない人もいるのに、レイスは全員に見えるだろ」
「……確かに」
「レイスなら聖魔術を浴びせれば消えるけど、幽霊もか?何で?今までは経文とかだろ?なら、経文には魔式と魔素が込められているのか?」
采真とカウンターの職員は首を傾げて考え込み、
「とにかく、お気をつけて。レイスでも幽霊でも、物理攻撃は効きませんから」
と職員は締めくくった。
そして俺達は、幽霊退治の任に出た。
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