第89話 大事な話

 エマは一瞬置いて、笑った。

「ありがとう。でも、だめよ」

「なぜ?愛しているんだ」

「同情は嫌。ブライトンだからっていう責任感も嫌。憐憫はもっと嫌」

「違う!

 何て言えば……。そう。君の力になりたい。君に力になって欲しい。そして一緒に、幸せになろう」

 俺と采真は両手を握り合わせて、祈るようにエマを見つめた。勿論ルイスも。

「エマ。返事を聞かせてくれないか」

 エマは考え、迷うように視線をさ迷わせ、そして、笑った。

「イエス」

「いやったー!!」

 俺と采真は飛び上がって両手を打ち合わせ、ルイスはエマと抱き合う。

 何事かと店に居合わせた客がこちらを見、聞いていた近くの客が教えると、店中で拍手と口笛と歓声が沸き起こった。

「おめでとう!」

「やったな、色男め!」

「乾杯だ!」

 そして乾杯がなされた。

 その乾杯がなされ、徐々に落ち着いて行くと、俺達は改めて2人におめでとうと言った。

「ありがとう」

「それで、実はルイスに大事な話があったんです。

 ルイスの事を父に話したら、共同研究しないかって。ルイスとエマ、日本に来ませんか?」

 ルイスとエマは顔を見合わせ、言い合った。

「霜村博士に弟子入りしたいって言ってたじゃない」

「夢みたいだ!でも、君はいいのかい?」

「あら。今の私は無職よ。それにね。探索者をやろうとした人間よ。未知の世界に飛び込むのは大好きよ!」

「決まったな、鳴海!」

 采真が笑うのに、俺も笑った。

 そして、言う。

「家はどうします?実は俺達の家の一部が研究室になっていて、両親は近所に借りている家から通って来ているんですよ」

 それに、ルイスとエマも考えた。

「そうだなあ。やっぱり見て決めたいし」

「そうね。しばらくはホテル暮らしでもしかたがないわね」

 それで、俺と采真は頷き合った。

「大事な話はもうひとつありましてね」

「ルイス、エマ。口は堅い?」

 2人は顔を見合わせた。

「ええ。そのつもりよ。事故の事だって、私達、これまで喋らないで来たわ」

「そうだね」

「じゃあ、どんな違反も許せない?」

 それには怪訝な表情を浮かべた。

「俺だって、駐車違反とかスピード違反はした事あるよ」

「私もよ。他人を傷つけない限りはね」

 それを聞いて、俺達はニヤリと笑った。


 ルイスとエマは、表に出て呆然と日本の街を眺めていた。

「信じられない……」

「何、これ」

 それに俺達が、コソッと言う。

「だから、秘密なんですけどね」

「隣とかほんの一部だけしか知らないんだぜ」

 俺と采真が言うと、ルイスとエマは興奮したらしい。

「そりゃそうだよな。

 何だこれ。どういう仕組み?」

「魔術ね?でも、どういう魔式なの。どれだけ魔力を使えばできるの?同じ事をやろうとしても、おいそれとはできないわよ?」

 2人共、好奇心でいっぱいだ。良かった。警察とかに言われたら困る。

「まあまあ」

 采真が宥め、俺は2人に言った。

「不動産屋に行って、物件探しをしてから、引っ越しの荷物を送って、ちゃんと日本に来ればいいよ」

 その時、隣のドアが開いて理伊沙さんが出て来た。

「あら、帰って来てたの?お帰りなさい!

 あ、ハ、ハロー?」

 顔にありありと、

「これでよかったわよね」

と書いてある。

「ただいま!」

「ただいま。

 紹介します。柏木理伊沙さん。

 こちらはルイスさんとエマさん。今度結婚するんだ。それと、父の共同研究者になるんだよ」

 それでお互いに自己紹介をした。

 理伊沙さんは目を輝かせておめでとうを言いながら、

「ついこの前まで私も車椅子生活だったの。だから、リフォームに安心な店とか、近所の利用しやすい店とか、全部わかるわ!任せて!」

とエマに言っていた。

 エマも、

「心強いわ!よろしく!」

とニコニコしている。

 これで何とかなるだろう。

 一旦ネバダに戻った俺達は、ルイスとエマが帰った後、相談していた。

「なあ、鳴海。次はどうする?」

「そうだなあ。ネバダは美味しい魔獣もいなかったし。2周する程でも無いか」

「後半は虫だったもんな」

 俺達は遠い目をした。

「マイク達の通って来たルートを一応行ってみるか?」

 言いながらも、あまり気は進まない。

 それは采真も同じだったらしい。

「無理には、行かなくてもいいかなあ」

「よし。次に行こう。どこがいい?」

「砂漠は暑いから、海がいいな!オーストラリアなんてどうだ?カンガルーもコアラもいるぜ!」

「いいけど、砂漠もあるの知ってるか?」

「え?」

 采真が真顔で狼狽えた。




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オーバーゲート JUN @nunntann

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