第52話 幽霊屋敷再び

 俺達は協会お勧めの不動産業者の勧める空き物件を見ていた。

 やたらと広かったり豪華だったりするので、日本人的には落ち着かない。しかも、俺達はここに転移石を置いて、往復する気なのだ。厳密には違法かも知れないが、内緒だ。なので余計に、広い部屋は必要ない。

 そう言って学生や駆け出しの探索者が入るようなアパートを見せてもらう。

「どこも、きれいですね。歴史を感じるというか」

「ありがとうございます。ヨーロッパでは、古い建造物も大事に使い続けますから」

 言いながら、迷宮近くの物件を色々と見て回る。

 と、リタがその建物に入って行くのを見かけた。

 俄然、采真が元気になる。

「ここは!?」

「はい。アパートですが」

「空きはありますか!?」

 業者は視線を反射的に揺らし、瞳孔をキュッと縮めた。

「ええっと、まあ、あるにはあるのですが……」

 ピンときた。来てしまった。

「出るんですね」

 俺が言うと、業者は曖昧に頷いた。

「幽霊くらい慣れてるぜ。なあ、鳴海!」

「まあな」

 今の家は、誤解だが幽霊屋敷と呼ばれていた。

「じゃあ、ここがいい!」

 俺は溜め息をついた。

「部屋と料金次第だな」

 まあ、料金は安いだろうが。

 部屋はそこそこ古いが、きれいに掃除はしてある。トイレとバスルームは別で、キッチンと、狭いながらも2部屋。それで家賃が、週にピザ2枚分。

 破格の値段だ。

「夜中に女の啜り泣きや呪うような声がしたり、人魂が飛ぶ事もあるんです。

 いいんですか」

「泣いて呪う声だけなら別に構わない。人魂は、火事にならないなら別にいいかな」

 俺が言うと、業者は俺を二度見した。

「そうだな。俺もいいぜ、その程度」

 采真もそう言い、業者は、ホッとしたような不安そうな、複雑な顔をした。

「まあ、ここでよろしいと仰るなら。何をしても、どれだけ下げても、人が居つかない物件だったので、助かると言えば助かります」

 こうして俺達のイタリアの家も、幽霊屋敷となったのだった。

 契約書をかわし、色んな手続きをしている間、采真は掃除をしていた。

 最低限の家具やベッドは備え付けになっていたので、買い足すものはそうない。まあ、ここでも一応は過ごせるように、多少の食器や布団は置くつもりだが、余ってるものや安いものを運んでくればいいだろう。

 用を済ませて帰って来ると、采真は上機嫌で掃除機をかけていた。

 そんなに幽霊屋敷が嬉しいのかと、誤解されそうだ。

「あ、鳴海!聞いてくれよ!リタ、この隣に1人で住んでるんだってさ。さっき見かけたんだ」

 采真がにこにことして言う。

 俺は下で管理人に興味津々といった風に言われた、

「本当にあんた達が世界で最初に迷宮を踏破したのかい。驚いたねえ」

「19歳って本当かい?中学生みたいだけど」

「随分あんたの相棒は嬉しそうだけど、女の子を引っ張り込む気じゃないだろうね?」

というセリフは、黙っていようと思った。

「そうか。それは何よりだったな」

「引っ越し祝いというか、挨拶にいかないとな!

 何がいいかな」

「タオルとか洗剤とか?」

「お菓子とかどうかな。駅前のあのケーキは美味い!」

「飛行機で運んで来たって言えないだろ、不自然過ぎて。

 クッキーとかプリンとかゼリーとかならともかく」

 采真に言うと、采真はそれもそうだったな、と唸り出した。

 その間に、俺は転移石を設置する。

 ここに設置するのは、ブーツのデザインの植木鉢だ。家に同じデザインの植木鉢があり、こことつないでいる。

「さあて。必要なものを取りに一旦帰るぞ。ピザも買ったしな」

「今日はピザだな!」

 俺達はカーテンをきっちりと閉めたのを確認し、転移石で日本の我が家のキッチンへ戻った。

「おう、お帰り。どうだった?」

 父が仕事中だった。

「うん。向こうで借りた家、また、幽霊屋敷になったよ」

 父も母も、笑い出した。







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