36 ~サクマも寂しいんですよ~
あてもなくシズエを探すサクマとダイチ。
ハアトの予想した通り、彼らには尋ね人を探す方法がなかった。
「なるほど、つまりあなたの生身は眠ったままなのですね」
――――大変ですね。と、大して興味もなさそうにサクマは歩みを進める。背後をついて歩くイレギュラーに時計を使用したのは一度だけ。以降はこうして自然に会話を交わすようにしている。
「お姉ちゃんを見るまではすぐに帰るつもりでした。でも、顔を見ちゃったら……最後にもう一度会いたくなって……」
「当然、二度と会うはずのない相手です。仕方のない行動だと思います」
これまた心にもない合いの手。サクマという男は、およそ心とよべるものが抜け落ちていた。彼は考えて発言をするし、合理的に行動する。かと思えば、生産性を放棄し、自らの気の赴くままに方向転換をする。だからダイチの目的に興味を持って付き従っているのも、本音か建前かわかりかねるところだった。
そして、ふむ……と鼻から漏らし、珍しく足を止めたサクマは、人差し指と親指を擦っては立て、また合わせては離れを繰り返している。まるでなにかの仮定をたてるように。思考を手繰っては伸ばすように。
「たとえば現世で眠っているあなたの心臓が活動を停止した場合……ここにいるあなたはどうなるのでしょう」
天は黄白色に濁っている。太陽あるいは月なんてものは浮かんでいない。彼は天を直視することを拒むように目をぎゅっと瞑っていた。
「――――まったく予測がたたない、こんなに面白いことはそうありません」
「いや待てよ、こちらの世界には何の影響も……」「魂の移動が省略されるだけ……」――――目を開き、見えないあみだくじを追いかけるように、彼の目先は縦横無尽に天を駆ける。半開きの口の端から、自らの仮説をぽたぽたと落としながら。
邪な思考を垂れ流しているサクマの背後で、ダイチは足音をたてないようにその場を離れようとした。が、脚が震え、うまく気配を消すことができず、靴底が意気地のない悲鳴をあげてしまう。
「――――おっと。……どこへ行こうとしているんですか? 安心してください。なにもしませんよ。ただ仮説を立てて過ごすことが好きなんです」
ダイチの肩に置かれた冷たい手。つかむでも叩くでもない生ぬるさは、かえってダイチの足を止めることになった。すぐに手を放し、再び背を向けたサクマは「ここには何もありませんから……」と加え、その背には哀愁がもたれかかっていた。
「いろんな空想を描いて過ごしてきました。保留者と恋に落ちる状況、アイビイ達と仲良くチェスを囲んでいる状況、そして、自分が成仏するときのこと……」
そこで我にかえったように襟元を正す仕草をとったサクマは、はにかむように肩をすくめた。
「すみません。別の場所を探しましょう。なあに、すぐに見つかりますよ」
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