7 ~では、時間です~
墓参りの翌日。ダイチは貸していた懐中時計を返してもらいに、再び姉のもとを訪れていた。
「付いてこなくてもいいって言ったのに」
ここに来ることをサヤカに伝えていたダイチも、彼女が付いてくることは意外だった様子。二人はこの後、一緒に遊びにいく約束をしているのだが、どうせならと墓地までくっついてきたようだ。
「わざわざ家に帰るのも面倒くさいでしょ。なら一緒に来たほうが楽だって」
もっともな意見であり合理的な計画に返す言葉もないダイチは、ポケットに手を入れたまま、むずむずとした面持ちでいる。居心地が悪そうにしているが、成長したサヤカとともに訪れる機会に感情が入り混じっているようだ。
「今日は時計を取りに来ただけだから、なにも面白いことはないよ」
「時計? 一昨日の懐中時計がどうしてここにあるの?」
「どうしてって……」
ダイチは一時の幼心で姉に貸したという事実が気恥ずかしくなり、途端に歯切れが悪くなる。彼自身、昨夜はその幼稚な行為を思い出し、枕もとに顔を押し付けて寝ていたほどだ。
「置き忘れただけだよ。――――あ、ここだ」
すでに火は着いていない墓石の上に、昨日のままになってある懐中時計が置いてあった。ダイチの手もとに戻った今でも閉じたままである。
「これでよし。じゃあ、飯でも食いにいくか」
「ちょっと待ってよ。手だけでも合わせていくから」
カンカン帽をかぶったまま、サヤカは上品に手を合わせ目を閉じる。まもなく頂点に達する太陽が容赦なく陽ざしを注ぎ、彼女のうつむいた顔には薄く影がかかっていた。
ダイチの姉とサヤカに面識はない。この短い時間でどんな会話をしているのかなんて、ダイチには分かりようもないこと。しかし、もし姉が空の上から彼らの成長を見守っているとすれば、きっと世話のかかるダイチのことで話に花を咲かせていることだろう。
「――――おまたせ」
懐中時計を弄んでいたダイチは、ひと通り姉との会話を終えたサヤカを迎え、いつもの日曜日が幕をあけようとしていた。
「結局、開けられないままだな」
いたずらにポケットに重みを増やす懐中時計は、いまだ殻にこもったままその姿を一向に現さない。
「これひょっとしたらね……ちょっと貸して」
サヤカは何か心当たりがあったのか「押すんじゃなくて……」「回してみると……」などぶつぶつ言いながら挑戦しているも、やはり時計がその身を差し出すことはなかった。
「はあ……だめ。ぜんぜん開かない」
――――そのとき。
懐中時計がやわらかく光を帯びはじめた。
「なに?」
「サヤカ――――」
ダイチが怪しい時計を取り上げようとサヤカの手を掴んだ瞬間。
二人の視界は、黄白色に染まった。
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