6 ~そこに私はいません。眠ってなんかいません。~
ダイチとその両親は、とあるお寺に併設されている墓地を訪れていた。
ダイチの姉が眠っている場所。毎年欠かさず、この日に墓参りをしている。花を手向けるのは父の、墓石を磨くのは母とダイチの役割だった。決まり事というわけではないが、初めて墓参りに訪れた際「いつも私が体を洗っていたから……」と幼い娘を思い出すように母が言い出たことがきっかけだった。当時小学生だったダイチは母を手伝うつもりで始め、今でもそれが続いている。
三人は一連の役割を終え、手を合わせたまま、そこにはいない人へ語りかける。十歳以上も歳の離れた姉弟であったため、弟のダイチは大層姉にかわいがられ世話をしてもらった。その記憶と感謝は今でも彼の胸に残っている。
ダイチが手を合わせながら語りかける内容は、毎年違うとはいえ自身の近況という点においては違いなかった。学生の世界は一年も経てば別人のように話題が変わる。とくに今年は、誰にも打ち明けられない幼馴染のサヤカとの関係性についての話題が旬だった。返す言葉を持たない姉に一方的に打ち明けることで、ダイチは人知れず胸の内を整理していた。
それと、昨日手に入れた懐中時計をちゃっかり自慢することも忘れずに。
黙祷を終えた三人は乾いた空とは対照的に、湿った面持ちで墓石と向き合い立っている。ほんの数年前まで、こうやって四人で食卓を囲んでいたことを思いながら。
「いつまで経っても慣れないね。お姉ちゃんのいない生活は」
感傷にひたる母は泣き声をあげることこそないものの、目もとを赤く滲ませながら言葉をしぼりだした。父には父の、ダイチにはダイチの、それぞれの思いはある。当然母にも、その身に宿していた自身にしか分かりえない感情があるのだろう。
「……帰るぞ」
父の号令で、母も踵をかえす。ダイチは歩き始めた両親に背を向け、先ほど心の中で自慢していた懐中時計を墓石へと掲げた――見せびらかすように。今だ使い方がわからない代物だが、外出時に持ち歩くほどダイチは気に入っていた。
「……」
時計を懐に仕舞おうとしたダイチだったが、不意に手を止める。
「明日まで貸してあげる」
一度だけ童心にかえり、お気に入りのおもちゃを渡すように懐中時計を供え、今度こそ
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