41 ~登場が遅いから、どう森ブームが終わったよ。~

「ここってなんですか?」


 手頃な位置と高さにあった椅子に腰かけ、サヤカは高い天井を見上げながら誰にともなく投げかける。ここは教会を模した白い箱の中。十字架もなければ日当たりの良い壁面にステンドグラスもない。ただ切妻の、一見そのように作ってあるだけの空き箱だった。唯一のアクセントといえば、外の色が見える程度の小さなくり抜きが壁に三つ。


「行きつけのバーがあってね、そこのマスターが教えてくれたの。記憶に妙な違和感があったらここに行けって。そしたら神父様が助けてくれるって。……神父ってサクマのことで合ってるのかな」


 答えたのはシズエだった。ここに到着するなり、ハアトはサヤカをおいてどこかへ姿を消してしまった。


「あの……。堂森ダイチのお姉さんですよね?」


 一方のシズエはあぐらをかいて床に座っていた。ひざに頬杖をつき退屈そうにしていたのも早々に、目を輝かせ、飼い主にかけよる犬のような勢いでサヤカの隣に移動した。


「なに? まさか弟の知り合いなの?」


 ぐいぐいと顔をよせるシズエにたいして、若干ひき気味のサヤカ。


「一応、幼馴染でクラスメイトです。お姉さんとは初めましてですけど。会いたいと思っていました」


 ルートには時間の概念がなく、真夏の墓参りがいつのことだったか、もう正確には分かりえない。それでも目を閉じて、墓石を通じて対話を繰り返していた二人がこうして対面している事実は、奇妙ながらも花が添えられたものだった。


「へえ、幼馴染……クラスメイト? ああ、そっか、そんなに時間が経ったんだ。まさかこうして会えるなんてね。こんな国があるって……死ななきゃわかんないし。まあ……びっくりだよね」


 「死」というワード。シズエは喉につっかえた言葉をなんとかひねり出した様子だ。


「あの、ダイチもこっちに来てます。お姉さんに会いたくて、今も探しているはずなんです」


 シズエは言葉尻をとる前に、「なんで」「うそ」と、口もとを押さえ、他ことばにならない悲痛な声をもらしていた。対するサヤカは、どうしてシズエがこうも狼狽えているのか分からなかった。しかし、それも束の間。すぐに言葉の綾をほどきにかかった。


「あ、すみません。言い方がまずなったです。私たちまだ死んでないです……」


「…………ん?」


 事情がのみこめず顔が固まってしまうのも無理はない。いやむしろ、この国に滞在するシズエにしては反応がうすいくらいである。


 サヤカはこれまでの経緯を説明し、どうしてハアトと共にここへやってきたのかを告げた。相変わらず彼は姿をみせないが、そもそも同行していたことに違和感があったのだ。サヤカを無事に送りとどけ、もとの業務に戻っていったのかもしれない。


 白霧たちこめるルートの色。いつの間にか黄ばみだし、今は土埃が舞うような渇いた世界を演出していた。

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