40 ~ようしゃべるわぁ~

「ダイチさんは保留者ではありませんのでお話しますが、我々四人は以前まで機関長のもとで働いている立場でした。いまは落ちこぼれたと思ってくれても構いません。そして現在の体制になる際に様々な権限を与えられました。しかし、それを嗅ぎつける悪い人たちがいるもので――そもそも悪人がほとんどの国ですから――我々に不当な取引きをもちかける事案が多発したのです」


 「懲役の減、区画の形成、裏の成仏……」と、サクマが指おり数える。


「いま現在ある町並みや、不自然な喧噪、この店もそう。ほとんどは悪しき風習の遺産なのです。情けない話ですが、その遺産を生み出したのが懐中時計――いや、我々です。良い思いをした者たちはみな成仏し、我々と遺産だけが国に残りました……」


 サクマは適宜ことばをきり、ダイチの反応をうかがいながら話を続ける。ダイチも口をはさむ真似はせず、たまに目を合わせながら、じっと相手の手もとを見つめていた。


「数ある負の遺産のなかに、大きな教会がありました。もちろん偽物です。それに目をつけたのが、嗚呼……まあ、私……なんですけどね。つまりそれこそが、国中の人々に開放されている案内係の城であり、私の陣地なのです」


 ほんの少し言いよどんだが、最後は思いの丈を覆いかぶせるように言い切った。サクマは息を吸い、ゆっくりと吐きだす。


「先ほど、どうして門番が? と仰いましたね。門番とはエイジアのことですが、彼女の時計によって記憶障害を起こした人は、みな私の時計を求めるのです。そんな機能はありませんが、天が授けた本能ですかね……。言ったでしょう? 私の時計は真実の時を刻むものだと。私の時計は彼女の被害者を救えるのです」


 ――――だからそこにシズエがいるはずだと。


 サクマはそう予想したのだった。


「私はこんな国が――――いや、これ以上は余談です。やめておきましょう」


 そして最後にひと言、しかし言いかけてやめた……。ダイチは場に蔓延る空気に酔ってしまい、ひどく居心地が悪そうにしていた。目はテーブルへ向けたまま虚ろをさまよい、くちびるは真一文字に血色を失っている。


 その様子を見たサクマは、打って変わって笑みをもらし「では失礼しますよ」と店の奥へと声をかけた。


「可笑しな話をしてしまいすみませんでした。これから私の執務室へ向かいますよ。少し遠いのですが、この国ではまったく問題がありませんね」


 サクマが立ち上がるのと同時に、かるい足取りでアカリがやってきた。


「ありがとうございました~。また来てね。――――よいしょっと」


 そう言って彼女は半ば呆けていたダイチを立ち上がらせる。そして、結局なにをしにきたのかよく分からない客二人を、名前のとおり明るい笑顔で見送っていた。薄暗い店内のなか、彼女の肌と毛先の色はとてもアンバランスで、扉を閉めるその瞬間まで不快に輝きを放っていた。

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