39 ~サクマがたくさん喋ります。~

「なんか探し物?」


 横目にサクマを置きながら、アカリは再びダイチの肩にあごを寄せる。未成熟で骨ばったその肩がこわばる。誤魔化すようにしてダイチは二人へ向けてどちらともつかない言葉を投げた。


「お姉ちゃんを探してて……見つからなくて困ってたんですけど、なにか思いついたみたいですね」


 その言葉を皮切りに、サクマは脚をほどき、背すじを伸ばした――――かと思いきや、そのままソファの背もたれに体を預けてしまった。しかしその目、口もとには、これから何かを言おうという人の気配が備わっていた。


「機関のなかには特定の権限をもつ者がいます。機関長、入国案内係、門番……と、まあ目立った動きをするのはこれくらいでしょうか。そのなかでも、一番の大所帯……それが我々案内係です」


 案内係と聞いたとき、さりげなくではあるがアカリが居ずまいを正した。


「人数の多い案内係のなかには、自らの領域、そして城ともよべる区画を持っている者がいます。それも四人だけ……。二人は機関の中に、二人は機関の外に、自身の城を用意しているのです。さらに、機関の外にある城のうち、一つは足を踏み入れることのできない場所にあり、片やもう一つは国中の人に開放しているのです」


 ダイチとアカリはひと言も漏れこぼさないように、真剣な、少しこわいものを見るような顔つきで時折あいづちを入れていた。一旦言葉を切ったサクマはその様子を見て、肩をすくめながら、ふっと短く息をはく。


「わかりませんか? 誰にでも開放している案内係の城に、お姉さんがいるのではないかと予想しているのです。なぜなら――まだ探していない場所というのも理由の一つですが――門番の餌食になった人は、皆そこに足を向けるからです」


 確信をもった語り口調に対し、ダイチの脳内では数はすくなくとも、それはそれは大きなクエスチョンマークが仕事をしていた。「率直な疑問を口にせよ」と、彼の背中の押しているのだ。


「まだよくわからないです。どうして門番が出てくるんですか? 急な推理に、頭がついていかない……」


 ……しばし沈黙。数回、サクマの靴が床を鳴らしたのち、彼は口を開いた。


「アカリさん、申し訳ありませんが、外してもらえますか?」


 疑問符こそついているものの、ノーとは言わせない抑揚だった。要するに「外せ」と言っていた。


 アカリは何もいわず、素直に席を立ち、頭を下げてその場をあとにした。


 女を侍らせる店に来て男二人のシチュエーション。入店当初の空気などどこへ吹かれていったのか、何もないテーブルの上に気味の悪い緊張感だけが残っていた。


「察していると思いますが、四人の案内係のうち、一人は私です。自分でいうのもなんですが、我々は特別でして。保留者の方に顔や名前を知られたくないのです」


 何もきいていないのに言い訳をする子どものようにサクマは話しはじめた。

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