54 ~中間地点ルート機関~

 二人はこの現象を、いま立っている場所を知っている。屈折した光の筋に迷いこんだような、元からまぶたの裏に広がっていたようなそんな場所。そして透明度の高い、にもかかわらず果てまで霧が続くような矛盾を孕む世界。ここは死後の国ルート。生きていながらにして二度目の到達である。しかしどうやら前回とは少々様子が違うようだ。二人の周囲にはなにも無く、そして出迎えた人物は見覚えのない顔だった。


「はじめまして。君たちがエイジアの使いだね」


 存外フラットな関係性をもちかける口調は、これまでに出会ったどの案内係とも色味が違う。若々しく、かと思えば琴線を心得たような印象を受ける。


「使い? 機関の人……ですよね? でもここは……どうしてまたここに」


 ダイチの歯切れの悪さもうなづける。あの日二人の突然の来訪にざわめいた口々も、機関の慌ただしさを演出する人々も、まるで見る影がなくなっていたのだ。


「そうだね。まず僕の名はランディ。もう随分と長い間、この名前で呼ばれていないけどね」


 ランディと名乗る人物がはにかむように口角を動かし、自己紹介を続ける。


「そして中間地点ルート機関の機関長だよ。昨今すこぶる評判が悪くて情けない限りだ」


 首すじをかきながら笑みを漏らす、ランディの落ちつきがない様はどこか子どもらしさを思わせる。それと同時に、この巨大な衆悪の巣の頂点にたつ者としての余裕も垣間見えた。


「あ、僕ばかりしゃべっててごめんね。エイジアの予見した通りの展開になって、今とても気分が良いんだ。みぞおちの底から奮え高ぶるほどにね」


 んふふっと無邪気な声を携えるランディのをとって、サヤカが数歩あゆみでた。


「あの時なにが起こったんですか?」


 彼女の言う「あの時」とは、まさしくルートから現世へと帰る直前のことである。案内係の四人、それにシズエの行方も、機関長であるランディなら事の顛末を知っているとにらんだのだ。


「賢いんだね。その話を知れば、今二人が疑問に思っていることがすべて解決する」


 行き場のない声がどこにも反射することなく二人のもとへと歩いていく。大方の予想どおり、過去になにがあったのか、今なにが起こっているのかをランディは知っているようだ。


「ハアトの時計がオリジナルだって言ってて、たぶんそれが原因で僕たちは家に帰っていました。お姉ちゃんともうやむやで、なにがどうなったのか全くわからないんです」


 サヤカの質問への答えを待てないダイチが、たまらず二の矢を放ってしまった。


「まず、誤解しているようだから訂正するけど、ハアトの時計はオリジナルじゃないよ」


 ふうっと息をふき、さらさらと力無く佇む髪をかきなでる。二人は発言の意味をかみ砕くことができず、一瞬息が止まった。


「彼の時計はいわばイミテーションさ」


 ランディがハミングよろしく自慢のおもちゃを紹介するように時計の説明を始め、二人の肺が再び空気の循環を始めた。

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