31 ~たまには口の堅い男~
「懲役? なんですかそれ」
ハアトの口を滑り出した言葉が聞こえていないわけもなく。さも当然の流れで質問が生まれる。今のは無しと言ったところで後の祭りだった。
「……先ほど申し上げましたが、この国で働いている人たちは機関での審査の結果、残念ながら成仏できなかった人たちなのです」
ハアトは周囲の顔色を窺いながら、サヤカに顔を近づけ、ひそひそと小声で説明を始めた。
「つまり、先ほどの男性は元犯罪者である可能性が高かった。だから罰として国で働いてもらう……ということです」
――――通称、服役者と呼んでいます。最後にそう付け足し、簡潔ながらも要点だけの説明を終えた。それでも聞いた側のサヤカの表情は晴れず、それどころか堰を切るように質問があふれ出してきた。
「じゃあ、人以外の物は何ですか? あの人が触っている土みたいなものは?」
「並んでいる飲み物は?」
「人相が良くて働いていない人もいますよね。それとも知らないところで働いているんですか?」
繰り出される疑問符の応酬に、さすがのハアトも眉間にしわを寄せ、しきりに相槌を合わせるほかなかった。
サヤカの猛攻も止まり、かすかに肩を上下させる彼女に向けて、ハアトはようやく口を開いた。
「全てを説明する暇も義理もありません。知りたければ死んでもらうのが一番です」
突如サヤカの眼前にあらわれた「死」の実感。ここは死後の国。生きていられる方が不自然なのである。故に彼が口にする「死ぬ」は、日本では味わえない説得力をもってサヤカの胸を抉り鷲づかみにした。
「……もちろん、死ねとは言いませんが、やがて現世へ戻るあなたに、何もかもをお話するわけにはいかないのです。わかってください」
そう言って背を向けかけたハアトに、サヤカはもう一度だけ質問をした。
「でも……アイビイもハアトも、働いている側ですよね。つまり、成仏できなかったってことですよね?」
「…………ええ」
――――なぜ。
もっと踏み込んでいきたい気持ちをこらえ、サヤカは口の代わりに足を踏みだした。しばらく無言のまま、二人は大きな流れに導かれるように進んでいく。
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