27 ~ミッション・門を突破せよ~

「お疲れ様です」

「やあ、ハアト。帰ってたんですね」

「大変だったそうですね」


 サヤカを連れ機関内を歩くハアトに、たくさんの人たちが声をかけていく。アイビイと違い人気はあるらしい。


「ちなみに、いま僕たちは外に出るべく門へと向かっていますが、この道に覚えがありませんか?」


 かわり映えしない色の世界、いびつに形成された町のレプリカ。いま二人は機関を抜けるため門へと足を向けていた。ちなみにハアトは、門の境界でエイジアが時計を使用したこと、そしてその顛末も把握している。


 サヤカは足を止め周囲を見渡し、ハアトを見上げながら首をかしげる。


「……まあ、そうでしょうね」


 その後もサヤカが言葉を発することはなく、やがて二人の前方に大きな遮蔽体が現れた。機関の末端に到着したのだ。


 二人が門を通過しようとしたとき、傍に建つ白い壁の扉が開き、中からエイジアが顔を覗かせた。


「お疲れさまです」


 目を細め、眉間にしわを寄せたエイジア。その顔はサヤカに寝不足気味の母親を思わせるものだったが、ここは死後の国、当然寝不足なんてあるはずもない。


「お疲れ様です。わざわざ挨拶ですか? ご苦労さまです」


 では――と、二人があくまで自然に門の外へ足を踏み出そうとしたその時……。三人の黒づくめが行く手を遮った。彼らは案内係ではなく機関の一般係員であり、エイジアのもとで門番の補佐をしている。


「お疲れさまです。エイジアの指示により、そちらの女性を通すことはできません」


 中央に立つ男が抑圧的な声で言った。


 ハアトが何かを言おうとする前に、エイジアが執務室から出てきた。


「アイビイに事情を聞いて、すぐにこの女性を通行止めの対象にしました。機関長の御言葉もない内に、生きている者を外に出すわけにはいきません。イレギュラー対応は最優先事項です」


 エイジアは一度言葉を切り、短くため息を吐いたあと、鋭い目つきでこうも付け足した。


「――――そんなことも知らないのですか?」


 サヤカは思わず目を伏せ、身を縮こまらせてしまったが、一方のハアトはいたずらな風を相手に髪を抑えるが如く優しい目をしている。


「そんなことは知らなくても良いのです」


 そして言うやいなやサヤカを抱きかかえ、一目散に走りだした。思いもよらぬ俊敏さに反応が遅れた門番たち、無事門の外へ足をつけたハアト。彼は振りかえり、サヤカを胸に抱いたまま機関の境界を越えられない彼らに声をかけた。


「規則を全うするのも苦労が多いですね。それに彼女のパートナーがすでに通過しています。一人も二人も一緒ですよ。お気になさらず」

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